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その10  かけがえのない父

小説を書いています。

かけがえのない日本の片隅から

その10  かけがえのない父

紘一郎は 医師に深々と挨拶をしてその夜 病院に父を残して一旦家に戻った。

長男の優は その父を見て、親子の情愛を言葉にはできない思いで見つめていた。

そして黙ってハンドルを握り、紘一郎と恵子の二人を安全に家まで連れ帰った。

この夜、初めて優は両親を大切にしたいという思いを新たにした。

この二人の親からことさらに、親孝行ということを教えられたことはなかった。

しかし、父紘一郎は 祖父正一郎に対して自然な形で大切にしていたのだと知った。

両親は結婚の始めから親との同居を決めていたという。

そのことを 長男として当然だと考える親戚もあれば、姉妹からは家賃の節約ね、と揶揄されたり、恐らくは母恵子は特に辛い思いをしたのではなかろうか・・

だが、今夜こうして祖父の命が助かったときに、自分たち家族が共に同じ屋根の下にいたことを、心からよかった、と思えた。

自分の結婚を決めた人と、これからの人生設計をもっと話し合っておかねばならないとも思った夜だった。

家に着くと、さっそく恵子は3人分のミルクティを入れて、カステラを添えて出してくれた。

そこに妹の沙耶が入ってきて

「大丈夫?おじいちゃん・・お風呂沸かしてあるわよ」

と、健気に話した。

「ありがとう。早速お父さんに入っていただきましょうね。」

そう恵子が言うと、紘一郎は

「いや、優 明日はまた君は会社だ、先に入ってすぐに寝なさい。今夜はありがとう。」

そのありがとうの言葉がその部屋の空気を浄化するようであった。

一人の老いた男が今病院で命を貯え、最後までしっかりと生きようとする姿が浮かび、家族がここで心を一つにして支えていこうと、決して言葉にはしないが一人ひとりが思うのであった。

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これまでの作品はこちらから「アンのように生きるインドにて」

小夏庵もよろしく!

by akageno-ann | 2010-01-31 23:34 | 小説 | Trackback | Comments(2)

Commented by nanako-729 at 2010-02-02 09:05
annさん、おはようございます!
手作りろうそく素敵ですね!従妹さんのブログもちょっと遊びに
行ってきました!心まで温かくなりそうな灯りですね!
Commented by ann at 2010-02-02 19:47 x
nanakoちゃん、従妹のブログを読んでくださって
ありがとう・・本当に私もすっかりファンになってしまったの
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