アンのように生きる・・・(老育)

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かけがえのない日本の片隅からの発信をライフワークとして、今は老いていくにも楽しい時間を作り出すことを考えています。

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存在の重み


インドを舞台にした小説です。あらすじは下にあります。
この小説の冒頭は・・こちらへ



第128話
その夜、美沙は夫の翔一郎に、怜子の病状について話をした。

「え、?怜子さん具合悪いのか?」

「う~~ん。そんなに大げさに言わないからこっちが先走ってはいけないと思うけど、
すごくいやな予感がしたの。」

「で、何か頼まれたの?」

「私に話したことをご主人に話しているのか、知りたいの。
北川先生も何か変化があったら知らせてほしいとおっしゃったことがあるし・・」

「そうかあ、じゃあ明日学校の帰りにうちの前でバスを降りてもらおう。」

珍しく機転がきき、しかも妙な詮索をしない翔一郎を美沙はこのときかなり見直していた。

ここの暮らしの中で、日々成長している翔一郎に正直なところ感動していた。

全国各地から集まってきたニューデリー日本人学校の教員チームは互いのビジョンを持ち合ってできるかぎり日本に近い教育を子供たちに授けたいと、日夜努力を重ねていた。

はじめは外国でくらしてみたい、程度の思いでここに渡ったものが居たとしても、ここの教育体制や保護者の教育熱心さに皆心を揺さぶられてくるのだ。

日常は日本のそれよりはるかに大変でも、不思議と生きがい、やりがいを感じてくるようだ。

翔一郎の場合は慣れるのに時間はかかり、美沙がやきもきしたことも多かったが、
ここへ来て、折り返し地点を感じたのか、翔一郎の熱心さは日ごとに増し、しれに加えて日常生活でもゆとりある発言ができるようになった。

人のことなど・・と思わなかったのはもう一つ、彼も北川夫妻の日ごろから懇意にしてもらっていることへの感謝が自然に出たのだと思う。


美沙がほんの少し、北川に魅かれていたとしてもそれすらも自然のなりゆきと感じているのか、それとも大きく超越していて、いや、そういうことには実はひどく鈍感なのか・・・

美沙はそこも計り知れなかったが、翔一郎が怜子の病状について心配してくれたことに感動していた。


翌日の夕刻、翔一郎は約束どおり北川を家に寄らせた。


「北川先生、すみません、およびたてして。」美沙がそういうと

「いや、怜子のこと何かありましたか?」

その言葉だけで、怜子が夫に何もはなしていないことが判った。


「えぇ、どうやらリンパ腺にしこりを発見されたようなのです。」

「いつからですか?」

「昨日うかがったので、最近ではないでしょうか?」

「そうかあ、とにかく体を触らせないので、わからないんです。」

体に触れさせない・・・その言葉はやけに美沙の胸をついた。

北川はそのことに気づくはずもなく、一人病妻を思う優しい夫としてそこに存在していた。

「まあ、何気なく様子をみて、日本に先に帰すことも考えます。」

「そうですか。是非そうしてください。私にできることは何でもします。」

美沙はそのとき、翔一郎の顔を見て、同調を求め、熱心に語った。
来るべきときが来たような、不思議な予感に苛まれていたのだった。

「今日ここへ寄ったのは、学校のことで話があったことにしてください。
場合によって、今日の夕食後お呼びしますから遊びにきてくれますか?」

「いいんですか?」翔一郎はさすがに今日は二人の方がいいのでは、と思ったのだ。

「正直僕もどうしていいかわからないんですよ。援けてほしい。」
北川の顔は真剣そのものだった。

その真剣さに美沙は深く心打たれていた。

いよいよ怜子さんを日本に返すときがきたのだ、と三人三様に感じ取っていたが、
実際本人がどのようにするのか、本人の意向も聞いてやります、と北川は
しっかりと答えた。

怜子のいないインド生活がどのような味気ないものになるのか・・・
それぞれが感じ取っていた。

人一人の存在の重みを知ったのだった。

                                               つづく



「annと小夏とインド」
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インドの日本人学校派遣教員の妻として美沙と怜子(さとこ)はデリーで出逢った。
偶然美沙のもってきていた「赤毛のアン」の本によって二人は共通点を見つけあい
旅も共にして、その交流を深める。
しかし、すでに怜子は子宮癌に冒された身で、手術後におおよその回復のまま
再び夫とデリーの気候厳しい中での暮らしを始める。

美沙の存在が大きな支えになるが、時には年の若い健康な美沙を羨む心もうごく
怜子であった。

そして、帰国半年を残したある日、怜子は癌の再発の恐れを美沙に告げる。
美沙は夫の北川に頼まれていた通り、その変化について北川に告白するのだった。
Commented by ちかた at 2008-04-15 21:58 x
人一人の存在の重み・・・それって普通に生活しているときは気がつかないものですよね。
あたりまえの幸せがあたりまえじゃなくなったときに気がつく・・・そんな気がします。

それぞれの思いがある中で、やはり怜子さんの存在の重みを共有しているのですね。

Commented by akageno-ann at 2008-04-15 23:01
ちかたさん、そんな風にとっていただいて、しごく光栄です。
Commented by まーすぃ at 2008-04-16 01:26 x
一分一分、噛み締めながら読ませていただきました。。。

怜子さんのことを心配して集った3人の心のうちを思い深く心動かされました。

この先は。。。!!とはやる気持ちを押さえきれません。。。
Commented by ロッキン at 2008-04-16 03:49 x
人一人の存在の重み・・・普段では考えもしないことをこうしてannさんのブログを読むと目がさめた気持ちにすららりました。

怜子さんのまわりには怜子さんを心から大事に思ってる方が多いのですね。それも怜子さんのお人柄によるものなんっでしょうね・・・

応援も!
Commented by バブ at 2008-04-16 09:10 x
怜子さんも複雑でしょうね。
自分以外の3人が自分の体のことで話をしているなんて。
心配してくれているのは分かるけれど、言えずに胸にしまっている大事なことなのに。
いや、美沙さんの気持ちも分かるし、北川先生もそう頼んでいたのだし、怜子さんも夫の耳に入ることを承知していただろうけれど……。
それだけ3人とも怜子さんを大切に思っているからこその行為だったんでしょうね。
美沙さんのその気持ちに一点の曇もないことを祈っています。
Commented by daikanyamamaria at 2008-04-16 09:12
annさん、おはようございます。
こちらでは、はじめまして。。
コメントをいただいて、ご挨拶に伺いました。

そして、ここにある物語に感動しています。
思いが胸を突いて涙がこぼれてしまいました。
人の命の重さ。。。その温かさ、ぬくもり。。。
その不在への不安と悲しみ。。。
愛の無限と不確かさ。。。

annさんに出会えたこと、感謝でいっぱいです。
この物語を読み継ぐために、毎日こちらに伺いますね。
リンクをいただけますでしょうか?
どうぞよろしくお願いいたします。。..。.゚。*・。♡
Commented by akageno-ann at 2008-04-16 10:47
まーすぃさん、丁寧に読んでいただいて恐縮・・
こうして皆さんと話していることが、ここにふっと生きてくるんです。
Commented by akageno-ann at 2008-04-16 10:48
ロッキンさん、もったいない言葉です・・目が覚める・・自分は
何気なく書いた言葉にそういってもらって・・改めて読み返してます。
Commented by akageno-ann at 2008-04-16 10:49
バブさん、一点の曇りもない・・これは無理だと・・今思ってしまいました。
恐らく複雑な胸中が・・そこを書いてみたくなりました。
Commented by akageno-ann at 2008-04-16 10:50
daikanyamamariaさん・・・ようこそ
私もさっそくリンクさせていただきました。貴女のブログの感性に感動してます。これからも覗いていただけたら嬉しいです。
Commented by crystal_sky3 at 2008-04-16 11:30
段々深刻な状況に近づいてきているのですね。
今までいた人がいなくなる・・・という怜子さんの存在感の大きさ、そして
何か見えない不安な気持ちが余計に寂しさを強くするのかもしれないですね。

応援してます★★ 
Commented by akageno-ann at 2008-04-16 12:04
クリスタルさん・・・お話の最後が見えてきてるんです。
応援に感謝しつつ進んでいきます。よろしくね・・・
Commented by CHIL at 2008-04-16 14:05 x
怜子さんをめぐる人たちの気持ち、怜子さん自身の思い・・・、
無常にも時は流れていく・・・そんな状況にはらはらしながら
今はとにかく、続きが読みたい気持ちでいっぱいです。
Commented by panipopo at 2008-04-16 17:33 x
3人3様の玲子さんを思いやる気持ちに心打たれました。
果たして玲子さんが3人の見守りと促しの中、日本に帰るのかどうかは定かではないのですが、私は彼女はある決心があるような気がします。
インドの地では、きっと計り知れない心の流れがある(悟った人たちには)のでは、って思います。玲子さんもある意味では悟った人だと思います。だから、これからの展開がどうなるか。。。

人間の存在って大きいですよね。北川さんがどうか怜子さんをきちんと精神的に支えることが出来ますように。男性って案外と女性(近しい)がひどい状況下にあるときには、助けることが出来ないから逃げる人もいるので、そう思いました。でもきっと北川さんはそんな人ではないと思うので、大丈夫かな。
応援も☆
Commented by akageno-ann at 2008-04-16 19:01
CHILさん・・ほんとに無常に時は流れますね。
病気と添って生きてる人にも時間はあっという間です。
Commented by akageno-ann at 2008-04-16 19:02
panipopoさん、ほんと女性と男性の違いはこういうところに出るように思うの。精神的に支えることって難しいですよね。考えながら進みます。
by akageno-ann | 2008-04-15 21:05 | 小説 | Comments(16)