アンのように生きる・・・(老育)

akagenoann.exblog.jp

かけがえのない日本の片隅からの発信をライフワークとして、今は老いていくにも楽しい時間を作り出すことを考えています。

ブログトップ | ログイン

2008年 03月 30日 ( 1 )

サーバントのシャンティ

あらすじ美沙たちは夏休みを利用しての欧州旅行から帰ってきた。
二年目4月に前任のサーバントローズが私事で辞める事になって、なんとか後任の
シャンティをみつけて、雇ったばかりでの長期旅行だった。
不安はさほどしなかったのだが、それでも家に着いたその時から自分の家の中が心配だった。

第120話
インディラガンジー空港から小一時間で美沙はデリーの自宅に帰りついた。
タクシーが横付けされて、翔一郎と美沙の二人が降りると、
オーナーの雇っている門番のチョキダールが

「グッドイブニング、サー」と直立不動で敬礼している。
不思議にこれが、美沙には懐かしい光景に思えた。

荷物はこのチョキダールとタクシーのドライバーが何も言わなくとも
きちんと部屋まで運んでくれて、もちろんその玄関を開けて明るい笑顔で
待っていたのは、シャンティだった。

この家に移ってきて二ヶ月足らずで、主人夫妻は20日近く家をあける。
普通ではありえないことだ。
その間彼女は毎日家の窓をあけ、そこそこの掃除をして、電気製品の保全、冷蔵庫の管理と日本人の若い婦人に口うるさく頼まれた仕事をどれほど行ったか、それは部屋に入った途端にわかる。

「グッドイブニング、サー。
 グッドイブニング、マダム。」

律儀なシャンティは丁寧に挨拶して待っていました、と言わんばかりの笑顔で
迎え入れてくれる。

ふっと美沙が思い出したのは、かつて新婚旅行から初めて姑信子の待つ夫の家に戻った日の事だった。もう10年近く前のことだ。

その日ほんの3日ほどの旅から帰宅すると、無表情の姑の出迎えにあった。

「美沙さん、荷物が入りきらないわよ。」

その日にあわせて、家財道具を運び込んだら、ダンボールの数を見て眉間に皺がよっていた。
綺麗にすっきりと暮らしていた姑の空間に新参の嫁の荷物が入った瞬間だった。

さして意地悪な人ではないが、瞬間瞬間に感情は正直に出す人であった。

その一瞬でも感じた、招かれざる客・・というイメージを持たれたことに美沙は大きなショックを受け、その日のことは恐らくこの先も折に触れ思い出すだろうと、その日の日記に美沙は書いていたのだ。

その、ことを今思い出した。   

シャンティの出迎えは暖かいものだった。乾燥してたまにダストストームという砂嵐のあるこの季節の自然状況、家を開けずにおいたら、内部に熱はこもり、サッシではない観音開きの窓の隙間からはどうしても砂埃が入り込む。

そのことを自分の住む家でなくてもよくわかっているシャインティは、クーラーこそかけていなかったが清潔に保ち、冷蔵庫には濾過し、沸騰させて湯冷ましにした水と麦茶を煮出してから冷やしたものが、クーラーボトルに入れて冷やしておいてくれた。c0155326_23584576.jpg

もちろん、頼んでいたことであったが、こうしてきちんと約束どおりに行ってくれるということに、感謝と感動の思いが押し寄せた。

にこやかに迎え入れる彼女の生活は質素で、昔のベテランサーバントの中には
主人の不在中にクーラーをかけて涼んでいた者がいたとか、噂は聞いていたが、そういう根性の持ち主はどこにもほんの少しいるかもしれないが、殆どの者たちは忠実に仕えるという精神を持っていた。

何故人々はおかしな行動のものの噂をいつまでもするのだろうか、それは転ばぬ先の杖として用心するにこしたことはないという見解からなのだ。

美沙はシャンティに会ったときから、純朴な素直さを感じ取ったので、中途採用ではあったが彼女が家にはいってくれたことを大正解だと思っていた。

旅の間に家のことを不安に思うことは殆どなかった。

その夜の夕飯はインスタントラーメンを美沙が作った。
野菜もキャベツ、玉ねぎ、ジャガイモ、ねぎ(万能葱のような細いもの)と新鮮なものが買ってあり、卵も冷蔵庫に保管されていた。

ささっと葱やキャベツを刻んで日本のインスタントラーメンに入れて、軽く煮込みインドビアと共に夫婦で食べた。
野菜の不足した感があったので、この暑さの中でクーラーをつけても汗を流しながら食べるインスタントラーメンの美味しさは格別だった。

「シャンティ、サンキュー、ベリーマッチ」と丁寧に感謝の言葉をかけると

「イエス、マダム、サンキュー」と簡単な言葉で嬉しそうに答え、美沙たちが食べたラーメンの丼を綺麗に洗って片付けた。

土産は子供たちへのお菓子、シャンティへのスカーフなど渡すと、恐れ入るように押し頂いていく彼女の後姿を見送りながら、

『明日から仲良くやっていけるね』
と、美沙はやさしい気持ちで心の中で語りかけていた。
                                         明日につづく


今日も応援のクリックをお願いします。
現代小説、インド情報どちらかひとつクリックしていただくだけで
ポイントになります。いつも感謝です。
にほんブログ村 海外生活ブログ インド情報へ
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ


「annと小夏とインド」
小夏にも会ってc0155326_20193416.jpgやってね・・桜が満開です。
by akageno-ann | 2008-03-30 23:36 | 小説 | Comments(18)