アンのように生きる・・・(老育)

akagenoann.exblog.jp

かけがえのない日本の片隅からの発信をライフワークとして、今は老いていくにも楽しい時間を作り出すことを考えています。

ブログトップ | ログイン

2008年 04月 16日 ( 1 )

ドビーのいる風景


インドを舞台にした小説です。あらすじは下にあります。
この小説の冒頭は・・こちらへ


第129話

怜子の病状について三人は一旦口をつぐみ、少し本人の様子を静かに見守ることにした。

そのことで、いきなり具合が悪くなるようには思えない顔色であったし、何より本人がデリーに滞在することを強く望んでいることを夫の北川はよく承知していた。

親類縁者がいない、この地での暮らしは横槍が入ることなく、二人だけの時間を思うままに堪能できることが、北川夫妻にとって貴重なことであった。

日本の実家は高知にあったが、親戚も多く何やかにや世話を焼きたがる、また意見したがる人々に、デリー赴任前は囲まれて過ごしていた。

怜子が子宮癌の手術でインドから戻ったことは、大げさでなく、居住する街にひたひたと伝わり、おそらく殆どの町人が知っていたとしても不思議はなかった。

怜子はここでは有名な看護士で、高等教育を受けて大学の看護学まで学んでいたから、高知へ帰ればまた、病院からの引きはすぐにあるだろうと言われていた。
いわゆる、この街での成功者の一人に数えられていた。
実績だけでなく、溌剌として親切な態度は確かに皆に慕われていたようだった。

だが、子供を持たないことにはひどく手厳しく、結婚をしたものの次ぐべき家の跡取りをつくらん・・と男たちは酒の席では必ずなじるような輩もあった。

インドに渡るとき最後に

「はように子供を作って戻ってこなあかんぜよ」

という酔っ払った親類の男をひどく蔑んだことを怜子はふと思い出していた。

後悔するのではなく、その後彼女が子宮癌という病で大手術になってもどったとき

その男には会いこそしなかったが、何を思っているだろうと、想像しただけで傷は痛んだ。

あのまま日本に、その高知の実家にもどったままだったら、恐らくは今のこの穏やかな生活はなかったであろうと容易に想像できるのだった。

地方都市での密接な人との関わりは、時としてこういう苦しみを伴うことがあると、ここデリーでは客観視できることが救いだった。
c0155326_204997.jpg

 そんな怜子はデリーの日常の中の、ある風景が大好きであった。

 怜子の家の前にはいつもドビーという洗濯物をアイロンかけする親子が大きな木の下に
ひっそりと陣取って、仕事をしていた。
真夏の日中も母親は炭火のアイロンをもって黙々と仕事している。
この2年半あまり雨と日曜日以外はおそらく殆ど毎日同じ木の下でその母子4人が寄り添って仕事する姿を見ることができた。

朝は比較的ゆっくりで、先ず長身の男の子が母親とリヤカーを引きながらその木陰にアイロン台を設え、そのそばで母親が炭火を熾す。男の子はその間に自転車でお得意さんの家々を回りアイロンかけの仕事をもらってくるのだ。
日中は母親が一人で汗をぬぐうこともなく、サリーやテーブルクロスなどにアイロンをあてる。
仕事がいいらしくかなりの量の洗濯物を預かったようだ。
水を殆ど使わず、大きなテーブルクロスもパリッとさせる技を怜子も実感したことがある。

昼はほんの少し休んでいる姿がある。それをみると怜子はほっとしていた。

午後になると、学校に行っていたのだろうか、今度は男の子が自転車の前と後ろに可愛い女の子を乗せ、連れ戻ってくる。

女の子はまだ小学校1年生くらいの幼さだが、二人で歩いて周れる家に出来上がった洗濯物を届けて小さなお金をもらうのだ。

怜子の家ではサーバントのファトマがたいていの場合受け渡しをしていたが、たまに怜子が出ると、インド人でないことがわかるのか、少し物怖じするような姿が可愛らしかった。

兄らしい男の子は自転車で届けるからかなり遠くの家からも預かっていたのかもしれない。

そして夕暮れになると、その仕事の道具を片付けて、リヤカーに母を乗せて、子供たちがそれを引いて帰るのだ。

この2年半の間に母親は変わらない様子だったが、少年は大きく成長し女の子もとても受け答えがしっかりしてきていた。

怜子はこの光景をずっと覚えていたいと思い、体が辛いときは居間の窓を開けて、外が見えるソファに横たわって眺めることがあった。
デリーの風景は心を慰めてくれる優しいものがあった。
                                         つづく

「annと小夏とインド」
konatuの動画第二弾・・アップしました。

お立ち寄りのついでにどうか
ポチをお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ インド情報へ
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ

あらすじはこちら
by akageno-ann | 2008-04-16 19:59 | 小説 | Comments(20)