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アンのように生きる・・・(老育)

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小説 その26

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その 26
恋愛をしている時の気持ちはおそらく誰もが実年齢よりかなり若やいだ気持ちになるものだと夕子は感じていた。
今黒田と再会し、恋人のように過ごす時間を持って、二人は間違いなく学生時代のような気持ちを取り戻していた。
食事をしてワイングラスを傾けるときも、愛情のこもる表情が夕子にはあった。
味気なく若い人々に付き合っていた昨日とは心の持ちようが違っていた。

それは不思議な感覚だった。
50近くなっても人間はいや、年齢には関係なく人に恋するとき、心は弾力性を蘇らせるらしい。

そして黒田の想像以上に紳士な態度が心を豊かに満たし、ふと友人の恵子に伝えたくなってしまっていた。

その夜は銀座のスペイン料理の店でオムレツやパエリヤを二人はサングリアと共に楽しんでいた。

「ジャガイモ入りのオムレツっていうのは、僕は初めてだな・・思いがけない組み合わせだけれど美味しいねえ。」

そう言って、夕子にも取り分けながらとてもおいしそうに食べている黒田は青年のようだった。

パエリヤは魚介類からの出汁が効いて見事な味だった。

「この米は日本米とは違って大きい粒だし、スープをいっぱい吸っていてたまらない上手さだね!」

スペイン料理をまともに食べたのは初めてだと言って喜んでもりもり食べる黒田が好きでたまらなくなりそうだった。

夕子はやはり女性としてのグルメな面を持っているのか食文化についてはよく知っていた。

ちょっと得意げにいろいろなメニューを紹介するときの口をとんがらせて早口で話す仕草が黒田は可愛い、と感じていた。

サングリアの後に二人はハーフボトルの赤ワインを飲み干した。

すっかり良い気分で食事を終えて、会計は黒田が済ませた。

そして細い階段を上がって地上に出ようとしたときに、二人の体は自然に寄り添っていた。
熱い掌と掌が重なって地上に出ると、自然に二人は少し離れたが、ふと互いに離れがたい思いにかられていた。

だが、その晩はそこで別れた。

二人とも妙な未練は残したくなかった。

それが中年の恋というもののような気がして、我に返る二人がそこに風に吹かれて立ちすくんでいた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その頃恵子の家では居間に夫と娘の沙耶が静かに座っていた。

あれから中村は沙耶には何も言ってこなかった。

仕事上の問題はなんとか収まったが現状のままに営業部に留まることを会社が許さなかった。

夫の堀田紘一郎は文字通り左遷になった中村をそれでも彼の同僚と送別会をして見送ったところだった。

「沙耶、中村君は君に詫びていたよ。待っていてくださいとは言えません、とはっきりと言っていた。」

紘一郎はそう率直に沙耶に話した。

沙耶は

「お父さん、中村さんは私に会いたいとは言わなかったのね。」

「いわない・・言えないだろう。」

「でもお父さんそれはひどい、お父さんの庇護のもとでの付き合いだったのね・・私は」

沙耶は悲痛な思いでそう言葉にしていた。

「沙耶ちゃん、年齢の違いはどうしようもないと思うのよ。それに中村さんはお父さんの部下であることのほうが今は意識が強いんだと思うの。わかってあげなさいね・・」

恵子もそう言葉を挟むしかなかったのだ。
c0155326_0204781.jpgつづく(小説はすべてフィクションです)

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右の絵は間もなく4歳のりょん君の作品です。
by akageno-ann | 2009-09-29 22:57 | 小説 | Trackback | Comments(5)

小説 その25

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その25

堀田恵子に田部夕子が電話してきたのは夜更けてからのことだった。

その夜は子供たちも夫も比較的早く帰宅して、珍しく夕餉を家族みんなで共にできた。

あれ以来、娘の沙耶は物静かで若い華やかな雰囲気で暮らしていた1ヶ月ほど前とは全く違っていた。

息子たちも沙耶の変化はわかっているのだろうが、こういうとき男の子というのは意外にいいものでさりげなく知らん顔をしてくれていた。

日ごろも大して話をするほうではなくなっている最近の日常はそのまま保たれているのだ。

さすがに夫はちらちらと娘の様子を気にしていたが、言葉が見つからないのか寡黙だった。

こんなときも一人ひとりに注意を向けてやれ会社はどうの・・学校はどんなだ・・おじいちゃんにきちんと話をしてね・・などとひとりやきもきする恵子自身は気持ちが疲れているようだった。

そんな一日が終わってほっとしたときに夕子は最近黒田と二度ほど会ったことを報告してきた。

「なんだか照れくさいけど、貴方は結びの神だからちょっとご報告ね。」

「あら、ご丁寧にありがとう。順調なのね?」

と夕子の照れからそんな風に恵子は切り出して言った。

自分のお陰・・といわれることは恵子はとても満足した気持ちになれた。

「結婚だなんだと考えないで気楽に楽しんでいこう、と黒田君に言われたの。
私、見るからに結婚願望なさそうに見える?」

「う~~ん・・黒田君だってプライドがあるから、先回りしてそう言ったんじゃないの?」
恵子は即座に答えた。

「さすがね・・そうかあ・・そうよね・・結婚願望があるくらいお見通しよね。」

夕子はそう言いながら少しだけ笑った。

「若い時の一瞬にして燃え上がり結婚まで考えてしまうようなそういう感じではないのでしょうし、今は本当に結婚が果たしていのかどうか・・私もわからないわ。」

そういう恵子の言葉を夕子は意外性を持って聞いた。

「結婚を悔やんだことはある?」

「悔やむ暇は今までなかったけど・・ただこれから結婚するんだったらもっと悩むだろう・・とは思うわね。でもそれはこの結婚をしたからわかったことだけれど・・」

「そうかあ・・結婚で学ぶことは多いわけよね。」
夕子は深いため息をもらした。

「いやね、タコが結婚してないからって私は経験が少ないとは思わないわよ。
ただ結婚について聞かれれば、これまでの暮らしがどうしても潜在意識として存在するわけでしょう?」

そんなことを言いながら、今の恵子は友人の夕子のことより我が娘の結婚のことに強い意識が向いてしまっていたのだ。

「恵子!また会ってよ。」

珍しく気弱な夕子に、恵子は女にとって結婚は人生の中での比重がいかに大きいかを再確認していた。

そして、娘 沙耶にも はっきりと示唆しなければならない時期がきていると悟っていた。

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by akageno-ann | 2009-09-26 11:46 | 小説 | Trackback | Comments(6)

小説 その24

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その24

黒田保夫と田部夕子は改めて恵子に引き寄せてもらってから、二度ほど二人で会っていた。

一度目は渋谷のオーチャードホールのブロードウエーミュージカル 「ウエストサイドストーリー」に黒田が夕子を誘ってきた。

幼い頃にアメリカ映画で見ていたものだったが、今は本場のミュージカルを日本にいながら見られる時代になったのだと・・時の流れを感じながらも、高校時代の友人であった黒田と恋人のように そのホールで待ち合わせすることに、ほんの少しの照れと緊張感が沸いてきている夕子がいた。


渋谷は地の利もよく、昼間の部への誘いだったので、そのまま夕食も一緒にということになった。

銀座線で久し振りに銀座に出た。原宿も渋谷も今は若者の町でやはり中年以上は銀座の落ち着いた雰囲気を好むのだ。

二人はコアビルの地下にある気取らないしゃぶしゃぶの店を選んだ。

焼肉よりもしゃぶしゃぶというのも・・ちょっと年齢のいっている二人ならではの選択だと
互いに笑った。

かつて高校生時代はラーメン屋で大盛りをいつも食べていた黒田だったが、酒と一緒の食事の席はすっかり様変わりしていたのだ。


「黒田君、今日はどうもありがとう。チケットはあり難く奢っていただくけど、夕食は私にお返しさせてね。」

そんな律儀な夕子を見て

「わかったよ・・素直にそうします。互いに気楽にやっていこうよ。」

しゃぶしゃぶここは一人ひとりの鍋で気ままに楽しめるカウンターにしていた。

横並びの席は面と向かう必要がないだけ、気楽だった。

かつて高校のクラスで隣通しの席になったことがあることを二人は思い出して懐かしんだ。

「あの頃、僕は君を大いに意識していたけれど、君は本当に自分の夢に向かって勉強してたなあ。」

夕子も笑いながら

「ほんとにねえ・・なんであんなにむきになっていたのかしら・・・負けず嫌いでね・・」

「男に対しても相当な競争心あった?失礼だけど・・」

謙虚に聞く黒田のことを夕子は快く受け入れることができた。

「そうよ・・私あの頃結婚なんて考えてなかったもの・・」

「ふうん・・で、今はどう?」

「これがねえ・・なかなか・・今日のミュージカルもそうだけど恋は悲恋がやはり素敵だと思うし・・結婚はなんか現実的で私は思い切れないのね。」

「今さら結婚を前提になんていわないから・・まあ美味しいものを食べたり、いいものを見たり一緒にたまにしてもらえばいいさ」

そんな黒田がその夜は夕子にとても爽やかな印象を与えていた。
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by akageno-ann | 2009-09-22 23:29 | 小説 | Trackback | Comments(7)

小説 その23

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N
その23

 時というのはいつも自然に流れている。

人の力では押し留めることなど決してできないものであるのはわかってはいても、なんとか時が止まってほしいと願うことがある。

いや沙耶の場合は、時がほんの少し前に戻ってほしいと、張り裂けそうな胸中で考えていたのだった。

沙耶の恋人の中村は沙耶の父親堀田紘一郎の部下としてエレベーター会社の営業マンを5年勤めていた。

誠実な人柄の中にユーモラスな会話力を持っていたので、営業部の中では指折りの業績を上げていた。

その勢いが災いした・・と他人は言うかもしれないが、今回大手の取り引き相手の担当にくってかかるような態度を見せてしまった中村宏だった。

直属の上司の紘一郎は社長命令で 相手先担当及びその上司を接待することと、中村の左遷を条件に詫びを入れることとなったことに、やむを得ない措置であったとはいえ、煮え湯を飲まされたような痛い思いが胸に残った。

中村は地方転勤となり、間もなく異動が発表されることになっていた。

沙耶はその事実を父紘一郎から聞かされた。

と、いうのも、その事件以来中村からの連絡はなかった。

沙耶はメールこそ毎晩のように始めのうちは送っていたが、何の返信もしてこない中村の心中を推し量ることができず、諦めなければならない事実を覚悟せざるを得なかったのだ。

そうして約一ヶ月があっという間に経っていた。

それでもきっと中村は沙耶について紘一郎に何らかの働きかけをしてくれるに違いない、とかすかに期待を抱ていた。

全く受身に待っているような沙耶の姿を母親として恵子は歯がゆかった。

そしてその歯がゆさはおそらく 恵子自身の若き頃の苦い思い出と重なっていた。

自分からは何も働きかけない・・その程度の愛情・・

我が子沙耶はそれで後悔はないのだろうか?

幾分ふさいだようなムードを出してはいるが、この子はまだ現実がつかめていない。

中村が、父親が・・そしてこの母親が何とかしてくれるのではないか・・と思っているようだった。

何とかしてやらなければならない・・・恵子は心が逸った。

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by akageno-ann | 2009-09-18 15:23 | 小説 | Trackback | Comments(6)

小説 その22

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その22

沙耶は2階から階段を軽やかに駆け下りてきた。

「お帰りなさい。遅かったのね」

沙耶は小さいときから父親の紘一郎の帰宅を、玄関まで出迎える子供だった。

テレビを見ていても、本を読んでいても 急いで出迎えると父親が満面の笑みで抱き上げてくれたからだった。

その習慣はずっと続いていて、家にいるときは必ず遅い夜でも自室から出てきた。

男の子たちは 最近は夜もおそかったり不規則な父親と そう話をすることもないらしく、夕食が一緒になる週末以外は朝食で挨拶する程度になっていたのだ。

恵子は変化してきている この家庭の形を繋ぎとめる工夫を考え始めている。

「ただいま、どうだ沙耶も少し飲むかな?」

成人を迎えてから紘一郎は沙耶に少し酒の飲み方を教えているかのようだった。

「女の子も自分の飲み方を少し知っておいたほうがいいよ。
ワインやビールくらいは飲めるほうが食事が楽しいからね。
たくさん飲むのはやはり体に悪い影響があるから控えるように・・」

と言うのが彼の持論だった。
赤ワインをすすめる父親に少し躊躇いがちに沙耶はそれでも必死で口を開いた。

「お父さん、中村さんに電話したら・・とっても元気なかったけど・・何かあったの?」

その言葉に紘一郎は珍しく笑顔を曇らせた。

「電話してきたのか?中村君は??」

「ううん・・私がかけたの・・今さっき・・」

「女の子の方からウイークデーの夜に男に電話をかけるのは感心しないぞ!」

父親が少し怒っているのがすぐにわかった沙耶は ワイングラスを片手にしていたが、心持震えながらグラスをテーブルに置いた。

「何も言わないけど、その声があんまり暗かったので・・」

恵子はその必死な表情の我が娘が一瞬とても愛おしかった。

「社会人は色々な目に会うから、それは話したくないことも多いのよ。」

そんな風に口を挟んでみた。

3人の沈黙がその部屋の空気を緊張させていた。
その緊張を父親の紘一郎が打ち破った。

「沙耶、お前は今はしっかり大学を卒業しなさい。中村君も会社でまだまだ経験しなくてはならないことがたくさんあるし、その内容をお前にはなすことはできない。
つきあうな、とは言わないが、お父さんの希望としてはもっと君には普通の恋愛をしてほしいとも思うよ。」

語尾はごくやさしいものだった。
しかし沙耶は

「でも、中村さんとは真面目にお付き合いしてます。そんな色々な人とつきあったりはできないわ。」

恵子は沙耶のその心の内は十分に理解できた。

「まあ・・とにかく・・中村君の仕事のことに口を挟むのは感心しないよ。
時間をかけてみていくんだね。お父さんも君の相手としてはまだ認めることはできない。
それは彼が未熟だとか気に入らないということではないよ・・
沙耶がまだ結婚を考える年としては早いと思うんだ。」

その言葉は優しい口調だが厳しいものだ、と恵子ははらはらしていた。


しかしこの父娘はそんなあとでも一緒にワイングラスを傾ける余裕がまだまだあった。

「美味しいチーズだよ。飲むだけでは胃に悪いからね。」

と 心配りをする父親に沙耶にはまだまだ庇護されている幼い娘の面影が恵子には感じられて、その夜はひどく切なかった。

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by akageno-ann | 2009-09-16 08:06 | 小説 | Trackback | Comments(2)

小説 その21

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その21

堀田紘一郎は大手エレベーター会社の営業部長を拝命して三年が経っていた。

最近他社のエレベーターの不慮の事故が多発し、この業界に向けられる視線はかなり厳しいものがあった。
営業部には特に風当たりが強く、安全面に地震を持って営業することが必要だった。

部下の中村宏は、主にビルディングの大型エレベーターの顧客廻りをしていた。

その日中村はその相手会社の担当に不評を買ってしまうような言動があったのだ。

夜遅くなって家に戻ってきた紘一郎は始めはいつもどおりの無口な様子と変わりなかったが、遅い夕食を終えて晩酌のビールがほどよく廻ってきたところで重い口を開いた。

「中村君だが・・沙耶と付き合ってるそうだな?」

うすうすは感づいているだろうと、放置していた恵子だったが

「真面目なおつきあいのようですよ、沙耶も大学の勉強は疎かにしていないし・・」

「しかし年が離れすぎているだろう・・」

恵子はどうしてもそのことを夫は気にするだろうことは承知していたが今あえて何故そのようなことをいうのだろうか?と思った。

「あいつも真面目なんだが、融通がきかん・・」

と、珍しく紘一郎は舌打ちをした。かなり気分を損ねている証拠だ。

「何かあったの?」

「う~~ん・・今日は彼の後始末で遅くなった!」

「営業なんだからいろいろあるでしょうけど・・何?」

恵子は恐る恐る聞き返してみた。

「今日は先方の会社の担当とやりあってきたんだ。相手がかなり高飛車に出たのはわかる・・この時勢だ・・ある程度の無理難題をわざと持ちかける者もどうしても出てくる。
どんなときも先ず社に持ち帰って・・と返答するように言ってあったが・・今日は彼の堪忍袋の緒が切れたらしい。彼の帰社より早く先方から苦情電話を私が受けたが、修復が不可能な様子だ。」

恵子は意外だった。

「へええ・・中村さんて鷹揚な人ではないのね・・」

恵子のその表現はもちろん沙耶の相手として考えてのことだった。

「他にもそういう面はあるの?」

「君は沙耶の相手としての彼を考えているかもしれないが・・その前に一社会人として責任をとらないとならなくなったのだよ。中村君とこのまま沙耶をつき合わせておくわけにはいかないだろう?」

それを夫の短絡的な考え方だと思った恵子だったが、まだ学生の娘の沙耶はどう捉えるか?すぐに不安になってきた。

「どれくらいの責任があるの?」

こんな愚問を投げかけても怒らない夫紘一郎は穏やかに対処する人だった。
恵子の父親は母の愚問を一蹴する人で年齢のせいもあるが、女に会社のことに口出しをさせなかった。

だが紘一郎は主婦の意見を大事にしてくれる人だったのだ。

「う~~ん・・・まあ土下座くらいなものでは先方は折れないだろうし・・中村もそれはしないだろう。私もそんな命はくださない。しかし社長まで話は通ってしまうような内容だ・・」


困り果てているはずの夫だが、恵子は夫の手腕に祈るしかない。

今前途に問題が起こることはもしかしたら沙耶の将来に必要なことなのではないか・・と思えてきた。

遅い時間だったが、偶然にも、いや何かを感じたのか・・その沙耶が2階から下りて来た。
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by akageno-ann | 2009-09-15 08:09 | 小説 | Trackback | Comments(6)

小説 その20

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その20

堀田家のポストには毎日無数のダイレクトメールが入れられるが、恵子は舅のものもあるので郵便物は一つ一つ丁寧により分ける。

舅は70を過ぎたあたりから通信販売を楽しんで利用するようになっていた。
時に買ってすぐに気に入らず、恵子たち夫婦や孫たちにその品物が廻ってきたりして閉口することもあったが、舅をがっかりさせないように皆それぞれに礼を言って受け取っていた。
衣類のこともあれば、膝のサポーターだったり、健康器具だったりした。

子供たちは結構面白がっていろいろなものを買うおじいちゃんを喜ばせていた。

そんなわけでこの家はダイレクトメールも一通り目を通して廃棄するのだ。

ある日のダイレクトメールは夥しい数のものだった。

その中に堀田恵子宛の毛筆の丁寧な少々大きめな封書が紛れていた。

先日の料亭からだった。

逸る思いを隠すこともせず、恵子はその封を破って中身を出した。

二枚の喫茶券が先ず出てきた。

あの店の併設の喫茶店のものだった。
そしてやはり毛筆の達筆な文字で店主からの私信が一枚入っていた。

『前略御免ください。
いつも当店をご贔屓いただきまして誠にありがとうございます。』

ここまで読んで、恵子はそのあまりに杓子定規な挨拶に吹き出してしまった。

・・・彼らしい・・と思ったのだ。

『先日はわざわざお越しいただいて、お友達をご紹介いただいたお席に、図々しくもお邪魔をいたしまして、大変失礼いたしました。』

・・まあ一応はわかっていたのだな・・と恵子は溜飲が下がる思いがした。

『あまりの懐かしさとあなたの変わりない魅力に、どうしてもお声かけしたく、あのように正々堂々とお部屋に伺ってしまいました。申し訳ありません。』

それまでなんとなく怒っていた恵子の心はここで大きく崩れた。

『お詫びにお茶のサービス券を同封させていただきますので、また是非お越しいただけますようお願いいたします。』

とあっさりしたものだったが、恵子にはその見覚えのある文字の力強さに心魅かれた。

食事をご馳走したいというのでもない、お茶をご馳走するからまた当店をよろしく・・という自分の店の繁盛をしっかりと意識したものだったのだ。

恵子はその封書に好感を持った。

そしてその手紙が着くと同時に田部夕子が電話をしてきた。

「恵子、感謝するわ。黒田君がクラシックのコンサートに私を誘ってくれたの。」

と、いつにない弾んだ声の電話が入った。


受話器を置いた恵子は

「全てことは上手く運んでいる・・・」


と呟いた。


だが、その夜、夫紘一郎が帰宅すると。彼から思いがけない言葉が発せられたのだった。

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by akageno-ann | 2009-09-13 23:19 | 小説 | Trackback | Comments(3)

小説 その19

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その19

あの日から4日ほどが経った。
あの日、友人夕子と黒田を誘って夕食をとった日から・・

その店で思いがけない再会をした恵子はひどく不愉快な思いにかられていた。

考えてみれば、客を知っているからといって、いきなり部屋に挨拶にきて、そこの主人だからという人が、かつての恋人だったようなそぶりを見せて良いものだろうか?

その日の翌日に夕子は恵子へ一応の礼の電話を入れてくれたが、

「恵子・・ご馳走様・・いろんな意味でご馳走様でした・・」

と夕子が笑いながら明るく言ってくれたことが素直に喜べない恵子がいた。


「いええ・・悪かったわ・・私としたことが若い頃の未熟さが暴露されちゃって・・
黒田君にもわるかったわね~~」

「いいえ・・あなたの魅力満載・・という感じだった・・結婚しているってことが一層貴方を光らせてたわよ。」

そういう夕子の言葉はいささかの皮肉がもちろん含まれている。
それくらいは覚悟していた恵子だったが

「まあとにかくこれからあとは3人での会合はなしね・・また二人で飲みましょう
貴方が構わなかったら・・もちろん黒田君とはうまくやってほしいけど・・」

「う~ん・・ここまで独身でいたってこと・・後悔はしたくないけど、いろいろ考えさせられたわ。
今さら結婚なんて考えられないかもね・・」

受話器を握りながらもっと気の効いた言葉を探したが、ちょうど舅が今に入ってきて長電話になりそうな恵子の様子をしかめ面でみるので慌てて挨拶をして電話を切ってしまった。

いやその舅のタイミングに本当は感謝していたのかもしれない。

そんなこともあって、あの日のことを そこの店主の気楽な声かけに八つ当たりしたい気分になってしまっていた。

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by akageno-ann | 2009-09-11 07:55 | 小説 | Trackback | Comments(6)

小説その18

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N
その18

堀田恵子が企てた田部夕子と黒田を引き合わせようとする会食は、思わぬ方向に進んでしまった。

いつもは、どんな時も恵子の招待客からの賛辞と礼状で終わるのに、今回の会食後恵子は様々に心が乱れ平常心を失ってしまっていた。

あの夜、恵子はかつての恋人と思っていた男と思いがけない再会をし、片思いだったのだ、と一人合点していたことが自分の心の未熟さから相手の気持ちを推し量れないでいたのだと言う事実を突きつけられて、その時点よりも尚後になって深く傷ついてしまっていた。

もしもあの若かった日に、あの料亭へ招かれていたことをわかっていたら、今の自分とは全く違う自分がこの世に存在したのだ、と思うと それは哀しさにも似た無念さが押し寄せた。

時効と言えば言えるような月日の流れに、おそらくあの店の主人はただの懐かしさで客として現れた恵子に声をかけたのであろうが・・・

そう思ってみてもなお、恵子はゆれる心は落ち着かなかった。

その店を出てからJRの駅に夕子たちを送って、夜の高速道路を使って帰宅したのは11時過ぎだった。

いつもは賑やかに家に入って 舅をはじめそれぞれに声をかける恵子は珍しく静かに入りこそこそと行動して夫のいる部屋に行った。

「どうだった?」
夫はあまり気のない声でそう聞いた。

「ええ、まあまあだったわ・・」

恵子もまた素っ気無くそれだけ答えた。

「飲むか?」

とナイトキャップでブランデーを飲んでいた夫は恵子に聞いた。

「疲れたからお風呂に入って休むわ・・すみません・・」

と言ってその部屋を出て行った。

夫にしてみればふといつもと違う妻の様子は気づいたが、思ったほどの好感触が得られない会食だったのだ、と感したに過ぎなかった。

いつも会が盛り上がり楽しく終わることができると、夜中であろうと ひとしきり賑やかに報告する恵子だったが、あきらかにこの日は不作だったのでは・・と思わせる妻の様子に 夫もそれ以上関心を持たなかった。

恵子もただ疲労感があって、入浴したのだが、ふと鏡に映る中年太りが感じられる己の体を眺めてしまっていた。

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by akageno-ann | 2009-09-08 11:18 | 小説 | Trackback | Comments(4)

小説 その17

ひまわりのような人
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                                                      タイトル画 M.N

その17

その夜は思いがけない方向に展開し始めていた。

恵子は若かりし頃の己の未熟な心をここで嫌というほど味わわされていた。

50近くになると、ふと自分の生き方に充分さを感じて妙な自信が出てきたりすることもあった。

ましてや今夜は友人の恋路をお節介しようと・・・すっかり段取り良く進んでいたのに・・

最後に何をうろたえることがあるのだ・・と

恵子は一瞬にして気を取り直した。

「よくわかりましたね。私のこと・・変わってない?」

そんな風に切り替えしていた。

主人はにこやかに

「ええ、変わっていない・・びっくりしました・・先ほどお会計にいらして従業員と初めて言葉を交わしてらして、わかったのですが・・失礼をお許しください・・このようにご挨拶に出てきてしまって。」

「恵子さんは魅力的な女性だったんですね・・」

初めてそこにいた黒田が言葉を挟んだ。

その唐突でいて温かい言葉にその場の空気が澄んだようだった。

「可愛い人でしたねえ・・いえ過去形ではないですよ・・今もそのままだ・・」

夕子は笑いながら

「恵子良いわね~~なんかすごくもててる・・」

柔らかい嫉妬の言葉は皆の心を和らげた。

「奥様はお店に出ていらっしゃるのですか?」
恵子はその頃にはとても落ち着いていた。

「はい、この部屋までの通り道にある出店で店番をしてますよ。良かったら会っていってやってください。」

その主人の言葉を最後にその座が閉じていくのだった。

短いがなんと内容の濃い会食だったのだろう・・

店の主人にこの店の良さを充分に伝えただろうか・・

その主人とまたこうして話すことができるのだろうか・・・

玄関で履物を履いてゆっくりと出口に向かう左側に先ほどの主人の言葉にあった出店があり、竹細工や地元の山野草を利用した食材など土産として売られていた。

中年だが綺麗で優しげな笑顔の婦人が店番をしていた。

この家の女将だった。

恵子がその店に入るのか、と思っていた夕子と黒田だったが、恵子はその婦人に静かに会釈をして店の中には入らなかった。

そのことが夕子には恵子の心のときめきがまだ収まっていないことを感じさせていた。
c0155326_0204781.jpgつづく(小説はすべてフィクションです)

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by akageno-ann | 2009-09-04 14:56 | 小説 | Trackback | Comments(6)