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こだわりの街にて

3月上旬のカナダは、まだ冬の気配が濃く、ケベックシティに降り立ったときは凍りついた道に足をすくわれそうであった。前夜トロントからナイヤガラに入り、やはり凍てついたナイヤガラ瀑布をホテルの部屋から眺めて少し高揚した気持ちで寝付かれなかったことと、時差による疲れも出てきたようで、夜の街に繰り出す元気はないと諦めていた。
この旅に誘ってくれた友人は、このケヴェックをよく知っていて、

「夜の街も素敵だから、外で食事をしてもいいし、貴方がお疲れならホテルのレストランでも私ハどちらでもいいのよ。」
と、言ってくれている。

ケヴェックの空港からバスで市内に入るのだが、薄暗い町並みには、まずスーパーマーケットとデパート、オフィスの入っているようなビルディングなどが、そこそこあって、異国の町の気配をさほど感ずることなく、車中でうつらうつらと揺られていた。

あたりは益々夜のとばりが降りてきて、風景はぼんやりしてきたが、町並みの様子が次第に変わってきた。
赤いテント屋根の玄関に小さなイルミネーションが見える。
レストランかもしれない。
軒を連ねる家々の小窓には、アールヌーヴォーのランプが一つまた一つというふうにオーソドックスな光を灯し、古いフランス人形が、こちらを向いて座っていたり、座っている椅子が猫足で、柔らかい曲線を描いている。

眠気に襲われていたはずの自分が少しずつ心浮き立っているのがわかる。

友人の『あなたの気持ちでいかようにも・・』と答を急がずにいてくれた気遣いが改めてあり難く思うのだった。

バスはいつの間にかケヴェックのオールドシティに入っていた。
なだらかな坂をお城のような建物を目指してバスはゆっくりと登っていく。
道は凍っているのでスパイクタイヤが氷をシャリシャリと踏む様に走っているのがわかる。

冷たい空気の中で、遅いクリスマスかと思えるようなイルミネーションが繊細な光を放ちながら新しい旅行者を迎えてくれる。
不思議な街だ。
お城のような建物はシャトーフロントナックというホテルである。
今夜の私たちの宿舎になっている。
こだわりの街にて_c0155326_21522346.jpg
ホテルの前は日広場になっていて、四方を囲む古い建物があって、欧州のドイツやベルギーの街の中央に見られるプラッツと似ている。
『タイムスリップしたみたい。』
そう思いながら幻想的な街に入り込んだと思えたのも、夜という時間の演出に寄るものかもしれない。
この旅に誘ってくれた友人につくづく感謝する。

そんな風に思いながらあたりを見渡す私に

「気に入ってくださったのね。』と、友人も満足そうだった。

ホテルの部屋は、やはり城の居室を思わせる如く、さほど広くはないが、どっしりとした木製の家具が設えてあり、グリーンを基調とした壁紙に小花が散り、落ち着いた雰囲気の中に女の子の見る夢を大切にしているような一室となっている。
かつてカナダの東の端にある、プリンスエドワード島のアンの話に憧れた少女時代を懐かしく思い出し、ついにその国にやってきたのだという思いを強くしていた。

外国の生活に触れて、考えさせられるのは「我が家」に対する思い入れである。
外国の友人の家に招かれると、一部屋ずつ丁寧に見せてくれながら、自分がその家の主としてコーディネートしているという優しく温かい自慢話を聞く事ができる。
その心がやがてその土地を愛し、国土を愛することにつながっていくのかもしれない。

カナダの国土は日本のほぼ27倍とも言われる広大なものであり、おそらくプリンスエドワード島のアンは、このケヴェックを訪れたことはなかったであろう。

しかしここにもカナダの人々の育んだ土地への愛着を感ぜずにはいられない。

                                   この項は つづきます・・

小夏庵ものぞいてくださいね。

この小説の冒頭は・・こちらからです

by akageno-ann | 2008-12-10 21:52 | エッセ- | Trackback | Comments(5)

Commented by ka-chan-anone at 2008-12-10 22:25
CHILです。
カナダ・・・
私が新婚旅行で行きたかったカナダ。
でも・・・SARSが流行っていて・・・トロント空港が閉鎖され
行けませんでした。
いつかフルムーンで行けるかな・・・。
annさんの旅行記を楽しみに読ませていただきます(^^)
Commented by akageno-ann at 2008-12-11 08:50
CHILちゃん、最近の話よね・・SARS
フルムーンの前にいけるんじゃないかな・・
私も島にいきたい!
Commented by crystal_sky3 at 2008-12-11 11:05
こんにちは♪
ロマンチックな雰囲気がお写真からもよくわかります。
あの2回の出窓から見る風景を想像していますよ^^
確かに海外ではお家の中のツアーをしますよね。
ベッドルームまで見せてくれるのね・・・ってうちの母はびっくりしていました。^^
こうしてannさんのところで今度はカナダ探訪が出来てワクワクしています♪
Commented by akageno-ann at 2008-12-11 18:43
クリスタルさん・・今日は一日あなたのブログの映像と言葉に
支えられました。ありがとう!
ベッドルームを見せる・・その気持ちを忘れてましたね・・笑
Commented by htquebec at 2008-12-29 08:51
シャトーフロントナックに泊まるなんて素敵です。
僕はケベックに住んでましたが眺めるばかりで。。
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