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父のこと

第1章 その3

父は今静かな毎日を過ごしている。
脳梗塞によって左半身の麻痺が未だに残り、思うように行動ができない。

55歳というまだまだ健康に働けるという年齢でこの状態を続けるというのは
どんなにか辛いことだろう・・・と親戚や近所の人々から言われてきたけれど
どうも父はそれほどに感じていないように私は思う。

負けず嫌いで仕事は人一倍いっぱいこなしたい方で、元気な時は朝早く出かけて
帰りは大抵9時過ぎだった。

多分そのハードな仕事ぶりがこの病を発症したというのが大体の人の意見だった。

『先生ゆっくり休んでください。』と生徒たちからの手紙も来るが黙って読んで
返事もまだ書いていない。

父は筆まめな人なのに、手紙を書くことをすっかりやめている。

父は元は公立の小学校の教師だったが、45歳を過ぎた頃に国立の養護学校に転勤した。
以前から養護学校というのは様々な障害を持った生徒たちが通う学校に、深い関心を寄せる父だった。

公立の小学校でいろいろな問題を持った児童を担任しながら、父は脳に障害を負っていたり、体に障害があって、思うように学習できない子供たちをよく細やかに指導していた。

私にもよく、
『人間には様々な違いがあって、困難を克服しながら暮らしている人がたくさんいるんだよ』
と、そういう自分とは異なる人々とのふれあいを大切にするように言われてきた。

小さいときからいろいろな生徒さんが家にも遊びに来たから、どんな場合でも私は紹介されて一緒に遊んだりしていたから、私は人とのふれあいは比較的スムーズに行えるようだった。

あるとき親子3人でやってきた私と同い年位の男の子は、外国の車の名前ばかり何度も言って、他の事に興味がないようだった。

だから私はそのご両親が父と話している間彼と一緒に近所の車を見に散歩に出かけた。
近くの家の駐車場にある車の名前を殆ど言えるので、びっくりした。

「すごいね!」

と、私が感心するとすごく喜んでずっとそうやって遊んでいた。

仲良くなったような気がして嬉しかったし、その時父は私とその子の様子を見て、微笑んでいたことを思い出した。

またあるときは目の不自由な中学生と一緒に映画に行った。
父も一緒だが、父は一番前に席を取って、私と中学生を隣り合わせて

「この人は、この位置からなら少し見られるから、何か映画のことで聞かれたら小さな声で
説明してあげなさい・・」

と、言われて、周りを気にしながら彼女のわからないところを小声で説明した。

彼女はすごく喜んで、それ以来私の友達だ。
目が見えないのに、自分のやることをしっかりやっているという人で、私は尊敬してしまっていた。

そんな父の教師としての仕事はここで終わってしまうのだろうか?
筆不精になった父は今のところ復帰する気配は全くない。

ただひたすらに無心にイラストを描いている。

そしてそのイラストは動物ばかりだった。
私が学校から帰るのを待ちわびていて、すぐにその日描いた犬やネコやカエルなどの
イラストを見せるのが日課だった。

だから私はそれを父の持っていたホームページにアップしてあげるようになっていたのだ。

つづく

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by akageno-ann | 2009-01-01 01:34 | 小説 | Trackback | Comments(10)

Commented by Ba-Chama at 2009-01-02 14:21 x
今日は1リットルの涙というドラマをYOUTUBEで見て 泣きました。
自分のもつ問題がちいさくなって 消えていってしまいました。
障害を持っても力強く生きた彼女の想いがここまで飛んできて 大きな火になって燃えています。

Commented by daikanyamamaria at 2009-01-02 16:03
       ●
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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします♪
Commented by cacaopon at 2009-01-02 18:19 x
♪ 新しい一年がまた始まりましたね。
annさん今年もどうぞよろしくおねがいします。
12月はバタバタとしていたためパソコンの前でも忙しく、年が明けてようやくゆっくりとこちらにお邪魔できました。
annさんの創作の意欲に感動!! 今も連載が続いていることがとても嬉しいです。応援!応援!
今年はいろいろと頑張りたい事があるので、私も負けてられないなあ。んふふふ~♪
Commented by fmutu at 2009-01-03 13:16
おけまして おめでとうございますm-ーm
今年も、どうぞよろしくお願いいたします^v^

幼い頃から、隔てることなく、色んな方と接する事のできる社会がいいですね。。。
みんな同じ人間なんですよね!
Commented by akageno-ann at 2009-01-03 15:33
ba-chama
私も思わずあなたのところで見返しました。
あれは本当に主人公の女の子も可愛らしくて
すごく切ないわね!
Commented by akageno-ann at 2009-01-03 15:33
マリアさん・・鏡餅の絵文字ありがとうございます!
今年もどうぞよろしく!
Commented by akageno-ann at 2009-01-03 15:34
cacaoponさん
いつも素晴らしい感想に感動しつつ書いてます。
こちらもあなたの素敵なブログをまた楽しみにさせてください。
Commented by akageno-ann at 2009-01-03 15:36
fmutuさん
人間の平等感て守られていないな、と感じることが多いのです。
人間に生まれたからには・・人間らしく・・というのが私の課題です。
Commented by elliottyy at 2009-01-03 16:11
新しい小説。さかのぼってYとませてもらいました。

お父様のイラストをお嬢さんがアップする。。
これからどうなっていくのかな。楽しみです。
Commented by ann at 2009-01-03 20:22 x
いっちゃん・・またはじめました・・笑
お暇なとき・・覗いてね・・
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