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わたしのこと

第1章 その6

『パパ』という呼び方は、実は私は憧れていたのだ。

両親は結構 年がいってから生まれた長女の私に物心ついた頃から「お父さん、お母さん」と呼ばせていた。

そのときからおばあちゃんは・・我が家で「おばあちゃん」と呼ばれていたのだが、
実はおばあちゃんも私に両親を 『パパ、ママ』と呼ばせたかったのだ。

それまでおばあちゃんは、この家では母から『お姑さん(おかあさん)』と呼ばれていたのだ。

多分おばあちゃんという呼び名はいやだったのだと、今わかった!

そしてもう一つパパには翔一郎という名前があるのだけれど、おばあちゃんは敢えて息子の名前を呼ばないのだ。

病気になった自分の息子を、最初、祖母は、そのことをそのまま認めることができなかった。

「翔一郎はもうだめなのかもしれない。」

そんなことをぽつんということもあった。

母親が年老いてから自分の子供の病気の世話をするというのは、とても惨めなことなのだと
子供心に私にもわかった。

母のほうは夫である私の父のことを坦々と看病していた。

私は今、この母と祖母の両方の血を受け継いでいる自分の性格を認識した。

だから無条件にどちらも好きなのだ。

そしてそれぞれの思いが容易に伝わってきた。

二人の間を取り持つなどという大それたことをするのではない。

ただ、それぞれが考えを述べたとき、多分何気なく正しいと思うほうを支援し、そうでないほうをちょっと慰めることができた。

その繰り返しで、ここまで来た。

そして、父の心の友になれた。

父は私の親であることを自覚してくれていた。
だから、母に言われるのか、時々進路について『頑張って勉強しているか?』など
聞いてきた。

いつも私は2本の指でVサインを出して、『大丈夫』だと応えていた。

そうすると父は喜んで、その日に描いたイラストを見せた。

そして誉めるととても喜んだ!

父はその時ちょっと若返っていた。

そう、時として子供のような心を持ってしまっていたらしい。


つづく

小夏庵ものぞいてくださいね。

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by akageno-ann | 2009-01-07 23:39 | 小説 | Trackback | Comments(12)

Commented by ba-chama at 2009-01-08 00:58 x
読みながら自分の祖母を想いました。彼女は長男を戦争で亡くし、精神病になった私の父を看病?し私を育て、、、。そんな人生を送っていた事をあの頃の私は見ていませんでした。

絵を描く人に(たぶん絵にもよるでしょうが) 汚れのない顔(心)をした人を見ます。
子供のような心かも、、、。
Commented at 2009-01-08 04:18 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by panipopo at 2009-01-08 18:03 x
応援だけして、今日は小夏庵の方にコメントしますね☆
Commented by ann at 2009-01-08 21:52 x
Ba-chama
おばあさまは立派な方でしたね。私の祖母も土佐の女として
すごく気丈でした・・40歳で夫を亡くし、子供を育て、神社を
守ったの・・その間の苛められもいっぱいあったようです。
絵を描けるって・・一番ウラヤマシイのです。
Commented by ann at 2009-01-08 21:52 x
鍵コメさん
ありがとう・・感激です!
Commented by ann at 2009-01-08 21:53 x
ぱにぽぽさん、いつも本当に激励に感謝!
Commented by さりすけ at 2009-01-09 00:50 x
何故かわからないけど、姉さんのこの小説はいつも透明な空気がただよっていて読んでいてとても気持ちがいいです。「私」の祖母と母への対応も愛情と知恵にみちていて、私もそんな風になりたいなって思いました。
Commented by ann at 2009-01-09 12:50 x
さりちゃん、やっぱり年なのかなあ・・と思うのだけど
透明な空気という言葉には感動と感謝!
よく本人はわからないけど・・そうありたい!
さりちゃんのおばあさまへの思いは私の中に
瀬戸内海の景色と共に強烈に印象付けられてるの・・
貴方は素敵な孫だと思います!
Commented by higeji-musume at 2009-01-09 15:38
CHILです。
私も父のブログを久しぶりに更新しました♪

自分に流れる父や母・祖父や祖母の血を感じられるのは
幸せなことなのかもしれませんね。
私は祖父と言う存在に会うことも出来ませんでしたし
祖母も遠く離れて住んでいて
年に2度ほどしか会えませんでしたから・・・。
Commented by ann at 2009-01-09 17:01 x
CHILちゃん、拝見しました。形は違えどうやら母性や父性が強くなる傾向もあるようですね。周囲がそのことに慣れていくには時間がかかります。第三者にいいアドバイザーが出てくることがあり難く思いました。また私自身もそうありたいとも思いました。
祖父母への思いは私は舅と暮らし始めて湧きあがるようでした。
Commented by cacaopon at 2009-01-12 17:06 x
♪ ちょこっと息抜きにこちらにお邪魔しました。
小説を読んでる間は なぜか家の中にいても隣で子供が「お母さんといっしょ」を歌いながらみていても
全く違う空気が自分の周りにだけ流れ、わずかな時間ですがプライベートな時間がもてます。

おばあちゃん。 私は父方も母方も田舎が遠かったのであまり会う機会が持てないまま、私が子供の頃にどちらも他界してしまいました。
いまは岡山に健在の夫の父方のおばあ!が私の大切なおばあちゃんです。
Commented by akageno-ann at 2009-01-12 20:36
cacaoponさん、そうですか!そういってもらえると嬉しいなあ!
私もおじいちゃん、おばあちゃんの存在は遠くて近い・・という感じでした・・でも今はすごく感じられます・・いなくなってからすごく
身近なんです!
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