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見舞いの人々

第1章 その9

翔一郎は病に倒れて1週間、意識が混濁していた。

誰の呼びかけにも応えず、ただ生きているということがわかるのは、「ごーごー」と聞こえるほど大きな鼾で眠ることだった。

医師は脳の損傷についてかなり厳しいことを語った。

しかしその最悪の状態を語っておく必要が現代の病院側の現状としてはいたし方のないことだったと思う。

理子は泣きじゃくりながらも次第に冷静さを取り戻していた。

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「パパ、理子よ~~~起きて~~そんなに寝てばかりいないでくださ~~~い!」

「おとうさ~~ん・・どうしたんですかあ~~~・・はい!右手動きますよ~~私の手を握り返してくださ~~い!」

ベッドの傍らで本当に時に看護士に静かにするよう注意を受けるほど語りかけていた。

もちろんそんなに冷たい注意ではない、ちょっと度が過ぎる声の大きさのときだけ、

「お気持ちはわかるけれど、他に患者さんがいるから・・」

とは当然の注意だった。

私はわかっていた。静かに過ごさなくてはならないことは・・

でも父が目覚めて、もし私がわからなかったら・・と思うと、今この瞬間も父の脳に自分がただ一人の娘であることを知らせたかった。

母は父の足をさすり動かない左手を一本一本指をマッサージして、やはり必死のリハビリを
素人ながら続けていた。

父の学校関係者が見舞いに来てくれるが、その都度いろんなアドバイスをしてくれるのはだんだん聞くのも辛くなっていった。

一番母が辛かったのは・・

「何故個室にしないのですか?こんな環境では危ないですよ!」

と父の友人に言われたときだった。

その人は父の同僚で同学年の担任で独身の女の先生だった。

父を尊敬してます・・から始まって、お疲れがたまっていたんですね・・と涙を浮かべて父を哀れむ姿は見ていて奇妙だった、いえ、気持ち悪かった。

こういうとき親族以外の人にあまり立ち入られるというのはすごく患者の家族を辛いものにする。

でも母は、藁にもすがってなにか良い方法をと、思っていたらしい。

「はい!」という返事を真剣に繰り返し、アドバイスを素直に受け入れるようなところがあった。

結果その母の忍耐強さは人々に感銘を受けさせたらしい。

しかも始めはいろいろ言いつつ見舞いに現れる人々も時間と共に次第に少なくなってくることを、母はよく知っていた。

そして、10日目に父は初めて、しっかりと目覚めたのだ。

第1章 了


小夏庵ものぞいてくださいね。

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ありがとうございます。

by akageno-ann | 2009-01-13 22:34 | 小説 | Trackback | Comments(12)

Commented at 2009-01-13 22:47
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ba-chama at 2009-01-13 23:16 x
頭のいい美紗さんのインドでの生活が思い返されます。

日本の大学病院で実習をしていた時に、交通事故で意識をなくした息子さんのベッドの傍で毎日毎日ずっといられた家族の方を思い出しました。
Commented at 2009-01-14 00:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-01-14 15:39
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by panipopo at 2009-01-14 16:42 x
annさん、こんにちは☆
翔一郎さん、目ざめてよかった~!
理子さんの話しかけの声が大きいの、うちの母で体験済みです。笑
やはり昏睡状態の相手にわからせようと思うと、当然のように声が大きくなってしまうんですよね。

美沙さんがいろんな方々のアドバイスに聞き入るっていうのも、愛情があるゆえのこと、その懸命さに心打たれました。

2位に上がってきてますね~!頑張ってくださいね☆ ^-^
Commented by CHIL at 2009-01-14 16:52 x
10日間も・・・10日間も目覚めない夫を
見続ける妻の気持ちはどんなでしょう・・・。
きっと美沙さんは心の中で怜子さんに祈ったでしょうね・・・。

りこちゃんは美沙さんの優しい気持ちを
受け継がれているんですね☆
Commented by ann at 2009-01-15 07:32 x
鍵さん・・ありがとう・・頑張る!
Commented by akageno-ann at 2009-01-15 07:36
ba-chamaの貴重な体験談、とても励まされます。
病院での日常はやはり特別ですね!
私もいろいろ患者の家族の体験をしました。
書いてみたいです・・
Commented by akageno-ann at 2009-01-15 07:36
鍵さん、ありがとう・・貴重な時間をこちらに・・うれしいです
そうなのインドにての続編です・・どうぞよろしく!
Commented by akageno-ann at 2009-01-15 07:37
鍵ちゃん再びありがとう・・互いに風邪には注意しようね・・
Commented by akageno-ann at 2009-01-15 07:39
panipopoちゃん、はい!目覚めたのです・
その感動を描くために今考えてます・・
目覚めるのと目覚めないのとでは、全く異なりますね。
藁をも縋る時期というのがあればあるほど情報は
入るようです・・それでも限界はありますね・・
応援に感謝!
Commented by akageno-ann at 2009-01-15 07:41
CHILちゃん、10日はある意味早いほうだと思うの
いろいろなケースを聞きましたが・・人間はやはり生命力の強さで
蘇る可能性が強まるようです。
何年もかかってという奇跡もやはり信じられます。
頭の医学はそれだけで解決しないものがありますね・・
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