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目覚めたとき・・

第2章 その1

翔一郎は目覚めた。

と、いうより彼はやっと言葉が発せられたのだ。

「美沙、悪い!」

第一声はこれだった・・・・

最初に気づいたのは理子だった。

「おとうさん、おとうさん、わかった?お母さんもいるのよ・・」

「理子!わかるよ・・」

そのまま翔一郎の目から涙が流れた。

ツーーーーっと彼の頬を流れるその一筋はその場にいた美沙と理子の心を
この世で最上のやさしいものにしていた。

「あなた、おはよう・・・」

美沙は事のほか明るく語りかけた。
そうしないと泣けてしまいそうだった。

理子はすぐに祖母の信子に携帯で電話していた。

「おばあちゃん・・お父さんが目覚めました。」
そういって電話を翔一郎の耳元に近づけたが・・

そのとき彼はまた眠っていた。

「と、思ったけど・・またねちゃった・・でもちゃんとしゃべったよ!」

信子はとにかくすぐタクシーで出かけると言ったらしい。

「おばあちゃん、焦ってきちゃだめよ!気をつけてね」

そんな気遣いも理子はできるようになった・・と美沙は目をほそめていた。

翔一郎は安心したのか、涙をぬぐってあげるとほっと少し微笑むようにして
再び眠りについた。

「お父さん、とても疲れたと思う・・きっとしゃべりたくてしかたないのに
言葉を出すエネルギーを出すのに時間かかったのよ。」

「そうねえ、私たちのうるさいよびかけ聞こえてたのね。」

よかった・・ほんとうに・・・

ただそれだけの言葉が二人の胸に迫っていた。

そしてこれからがまた新たな試練があるだろうが・・

しかし目覚め家族を認識できたことはまず奇跡だった。

生きていること、そして目覚めたこと・・・

そのことにただ感謝する美沙と  父を失わずにすんだ娘の理子の笑顔が
そこにあった。

つづく


小夏庵ものぞいてくださいね。

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ありがとうございます。

by akageno-ann | 2009-01-15 11:18 | 小説 | Trackback | Comments(11)

Commented by higeji-musume at 2009-01-15 17:04
数少ない言葉を発してまた眠りについてしまうほど・・・
妻へ娘へと、その短い言葉にたくさんのエネルギーが
必要だったことがよくわかりました。
翔一郎さんのありったけのエネルギーがこめられていたのでしょうね。
とにかく目覚めてよかった。
家族にひと時でも安堵感が広がってほんとによかったです。

ココを読みながら、父のブログに書くことを考えています。
理子ちゃんが病室で大きな声で叫んでいたように
(ちょっと内容は違うけど)、
私が父のためにしていたことを今度綴ろうと思います。
Commented at 2009-01-15 22:10
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Commented by ba-Chama at 2009-01-15 23:19 x


言葉までかけてくれ、家族の喜びは大きかったでしょうね。
先日TVで言語障害のある患者さんの為に 新しくできた技術を紹介していました。
心電図をとるときにつかうような格好のものを 頭につけ 患者さんが伝えたい言葉が PCの画面にでるようになっています。
ひとり病気によって言語障害をもった患者さんが
”人とコミュニケーシオンをもてないのなら 死んだほうがましだ”
と思ってらしたそうですが、この技術を使うことで その気持ちはなくなったと云ってらっしゃいました。
Commented by panipopo at 2009-01-16 07:16 x
翔一郎さんの目覚めのシーンが、昨年9月に養父をICUに見舞ったときのシーンとダブって、ほろりとさせられました。本当に昏睡状態でも声が聞こえているんですよね。私だとわかったときに微笑んで、人工呼吸器が入った喉から何か言おうとうっすらと目を開けた養父の姿がしみじみと思い出されます。

人間ってどんな形になっても、生きている限りは、愛する人々に囲まれている時にはその愛が通じているんだな、って思いました。素敵な描写をありがとうございます☆

Commented at 2009-01-17 01:22 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ann at 2009-01-17 14:49 x
CHILちゃん、そうとにかく目覚める・・これは最高の奇跡です!
長く患いそのままという例も知っていますし・・皆それぞれに回りは頑張りますよね・・人間の選べない状況・・それをどうやって通っていくか・・いつどんなことが起こるかわからない時代に少しだけ心を砕いておきたいと思って書いています。
いつも共感とそして、あなたの優しさをありがとう!
Commented by akageno-ann at 2009-01-17 14:51
鍵コメちゃん・・そう最後の二行・・

私も書いていて幸せになりました。
貴方も頑張られていて素敵!
Commented by akageno-ann at 2009-01-17 14:54
Ba--chama、今の医療は治療のほかに障害者に対する様々な技術が発展していて・・だからこそ生きていることのありがたさを患者の方もいっぱい感じてリハビリに精を出してもらえるといいなあと思います。コミュニケ-ションをとる方法は必ずあるんですね・・
最初は筆談でもだんだん言葉が発せられるようになったり、またその逆もあるし・・焦らずに進むということが一番大切みたいですね・・
Commented by akageno-ann at 2009-01-17 14:58
panipopoさん、お父さまとの時間を書いていただいて、私はジ~~ンとしました。最後に貴方に会えてどんなに喜ばれたことでしょう。そうどんな形になっても周囲から愛されるという状況・・これが一番大事だとあなたの文章から思いました。
ありがとう
Commented by akageno-ann at 2009-01-17 14:59
鍵コメさん・・メール差し上げました。
声援を本当に感謝そています。
Commented at 2009-01-17 17:02
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