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目覚めた日から・・

第2章 その2

けれども、人はそう簡単には死なないけれど、元気に生きていくって、とても大変なことだ・・と

理子は初めて知った。

まだ13歳だった彼女は親族の死や大きな病気も体験していなかったので、最初は感情のコントロールに苦しんでいるようだった。

理子が一番嫌だったのが、祖母の落胆の言葉を聞くことだった。

我が子翔一郎の突然の悲劇を受け入れられず、その原因もわからず、どこに怒りをぶつけることもできず、時折パニックになって、翔一郎自身に

「あんたはいったい、どうしてこんな姿に・・・」

と、泣き崩れていることがあった。

それまでの日常は翔一郎は同居の母の信子をさりげなく大事にしていた。

力仕事の殆どのことを祖母の代わりをしていたし、休みの日に大きなものを買いたいといえば、気楽に車を運転して連れ出していた。

母の美沙もそういう夫翔一郎の姿をほほえましく見守っていたのだ。

だから、と、いうわけでもないが、理子の思うには

「お父さんは病気なのに、何故おばあちゃんに文句をいわれなくちゃならないの?」

という疑問だった。

美沙は、姑信子の精神が安定しない間、自分の実家に理子を預けることも考えたが、恐らく理子がいないと、美沙と信子は煮詰まってしまうだろうと考えた。

これからも三人で翔一郎を介護していかねばならないのだから、理子にもその役割を一緒にわかっていってもらおう、と心に決めていた。

果たしてそれは功を奏したようだ。

理子は大人よりも柔軟に考える思考能力を持ち、面倒くさがるより先に、父との時間を率先して作っていったのだった。

信子は翔一郎が目覚めたという連絡を受けて、病院に急行したが、残念ながらうまくその日は
目覚めず、臍をかむような思いをさせられた、と少々文句が言いたげたった。

こんなときに、美沙が杓子定規に

「すみません、でも私たちがわかりました。」

など言おうものなら、嫉妬に狂うような発言をしかねないと、わかっていたように・・

「理子のことはわかったようですが・・私のことはもう一つわからないのです。」

と、だけ言っていた。

それはその時の信子の心には大事なケアになるようだった。

『大人の世界は、結構本当でない心があるのだ』と

初めて感じたのだった。

つづく


小夏庵ものぞいてくださいね。

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ありがとうございます。

by akageno-ann | 2009-01-17 23:16 | 小説 | Trackback | Comments(4)

Commented by panipopo at 2009-01-18 20:01 x
みんな愛情を持って、三者三様の祥一郎さんへの尽くし方があって、そしてそれに対応する三者の間柄のことが面白いように描写されているのがすごいな、って思いました。
美沙さんの信子さんに対する思いやりというか保身の技も素晴らしいし、それを見守る理子ちゃんのひたむきな気持ちも読んでいる私にも、なるほどね、って気持ちよく伝わって来ました。

みんな翔一郎さんのコンディションについて、受け止め方や対処の違いがあるのが、それが愛情の違いでもあるんでしょうね。
Commented by higeji-musume at 2009-01-19 16:39
CHILです。
人は簡単に死なないけど、元気に生きていく事は大変・・・
まさに私もそう思いました。父が倒れた時に・・・。

panipopoさんがコメントされているように↑
3者の描写が細かくて、まるでそばで見ているように書かれていて
本当にすごいです。

翔一郎さんには母の愛も妻の愛も娘の愛も、きっと通じてる。
翔一郎さんが私の父のように精神的不安定さが出ないことを祈ります・・・。
Commented by ann at 2009-01-19 22:35 x
ぱにぽぽさん、3人の様子をとてもよく受け止めてくださって
なんだかとても嬉しいです。理子のひたむきさも描きたいものなので勇気が出ました。子供はこうした状況からとても多くのことを一人で学び取るようです。愛情のちがい・・思いの違い・・それをテーマの一つにしていくように思います。
Commented by ann at 2009-01-19 22:38 x
CHILさん、病気になった家族を見つめる目と思いは本当にそれぞれだと思い知ったことがあります。
でも一人勝手ではなく、皆それぞれに悩んでいることも。
こうして書いていて自分でも整理がついてきます・・
不思議ですね・・
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