母のこと・・・
第2章 その4
北川先生という人にすがる様にして声を出して泣いた母の、その光景を見ている時間は
そんなに長い時間ではないのに、私はその映像を自分の脳裏にしっかりと焼き付けてしまいました。
母は何故あのような態度を施設のスタッフのいる前でしたのか、ちょっと私にはわからなかった。ただおばあちゃんがいたらきっとそんなことしなかった、と思う。
でも北川先生はとても良い人だった。
母の肩をつかんで、
「遅くなってしまったね」
と、言って、すぐに父と私の方へ向かって歩き出した。
母もすぐに微笑みに変えて、そのあとをついてきた。
なんにも悪びれる様子もなかく。
だから、不思議とその周りの雰囲気も別段特別のことを見たような空気は残らなかった。
「理子ちゃんだね。大きくなったね。」
そう私を見つめた北川先生の目はとても優しかった。
「理子、小さい頃に1度だけお会いしているのよ。北川先生はインドでとてもお世話になった方なのですよ。」
インド・・時々母から聞くようになったその未知の国、そこで一緒に暮らしていた人らしい。
一緒にというのは、インドの日本人学校に父が赴任していた時に同じ学校にいた先生ということだ。
父が倒れてから半年もたって現れたその人はどこに住んでいるんだろう、などと理子は考えていた。
北川先生は父に手を出して握手した。
父は右側はしっかり使えるので、その手を握り少しだけ恥ずかしそうにした。
「とおくから・・・よく きて ください ました・・」
父はしっかりとそう語った。
「元気になったのですね?すぐに来れなくて、本当に失礼しました。」
「あなた、嬉しいわね・・北川先生とお茶をいただきながらゆっくりお話しましょう。」
そういって、スタッフの方にむけて、母は
「びっくりさせてご免なさいね、インド時代に親戚のように親しかったかたなのです。
高知からいらしてくださった方なの、今日のリハビリはこれまでにさせてください。」
と、いつになくきっぱりと言った。
親戚のような・・・といっても私はこのおじさんに会った記憶はないのだ。
母と父とこの北川先生という私から見ればおじさんのような人との知らない部分が
たくさんあるような気がしていた。
つづく
「小夏庵」ものぞいてくださいね。
皆様の声援のお陰で現代小説にも返り咲きました。
ありがとうございます。
by akageno-ann | 2009-01-22 07:36 | 小説 | Trackback | Comments(6)
Commented
by
panipopo
at 2009-01-22 20:10
x
理子ちゃんの目から見る北川先生と美沙さんたち夫婦の関係が、とっても興味があります。どんなふうに展開していくのか。。。理子ちゃんが昔の4人のことを知って、どこまで理解できるのか^-^
続きが早く読みたいですね~☆
続きが早く読みたいですね~☆
0
Commented
by
Firstsnows at 2009-01-23 09:51
Commented
by
ka-chan-anone at 2009-01-23 16:43
理子ちゃんの目にうつる北川先生・・・、
お母さんと北川先生、どんなふうに感じていくのでしょう。
北川先生の人間性や、父親と北川先生の信頼関係も
敏感に感じ取っていくのでしょうか・・・(^^)
続きが気になって仕方ないです☆
お母さんと北川先生、どんなふうに感じていくのでしょう。
北川先生の人間性や、父親と北川先生の信頼関係も
敏感に感じ取っていくのでしょうか・・・(^^)
続きが気になって仕方ないです☆
Commented
by
akageno-ann at 2009-01-23 23:23
panipopoさん、私もここがちょっと考えどころです。
子供と思われる年でもとても勘が働くというのを知っています。
子供はいろんなことを思うのですね・・
それはまだ小説の世界しか知らなかったことが現実になるような
時間です。
子供と思われる年でもとても勘が働くというのを知っています。
子供はいろんなことを思うのですね・・
それはまだ小説の世界しか知らなかったことが現実になるような
時間です。
Commented
by
akageno-ann at 2009-01-23 23:24
Commented
by
akageno-ann at 2009-01-23 23:25