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母とその人と父

第2章 その5

北川先生は、理子ちゃん、と最初からとても親しげに語りかけてきた。

「理子ちゃん、いくつになったの?学校たのしいかい?」

北川先生の語り口はとても暖かくて、誠実そうだったので、私はさっき母がすがりつくようにして泣いたことは、頭の隅から離れなかったけれど、多分母はとてもその人と親しいのだ。

ぼんやりと質問に答えていると、母は

「理子、北川先生の奥様が私がよく話す怜子(さとこ)さんのご主人ですよ。」

私は、そうだった・・と思い出した。
怜子さんは母がとても尊敬する人だったそうで、でももう、この世にはいない、と聞いている。

「インドでは家族のように一緒にたくさんの時間を過ごしたの。そしてきっと貴方が生まれたことを喜んでくださったと思うわ。」

そう話してくれたのは、私が6年生の頃だった。

学校の授業でマザーテレサの伝記を読んだとき、母は、その怜子さんがインドのその施設を訪れたことがある、と話してくれた。

そしてまた、二人の仲良くなった共通点が「赤毛のアン」の小説を好むことだったのだ。

そのどちらの事実も私にはちょっと大人の世界に入れたようで、とても嬉しく、一生懸命それらの本を読んだことを思い出した。

アンの本は、中学校入学祝いにシリーズで母が揃えてくれた。

母は自分がそうして持ちたかったのだ、と言っていたけれど私もとてもうれしくて、休みの日に楽しみに読んでいた。

その頃のなんの心配もない、夢や希望のいっぱいあった時を思い出していると、私はほんのちょっと、いいえ、たくさん哀しくなってくる。

母は北川先生との親しさをそんなに話してくれなかったけれど、まるでお兄さんのように慕っているのだ、とわかった。

北川先生は母の大親友だったというその奥さんが亡くなったあと、再婚しているということを話していた。

奥さんがちゃんといる人だって聞いて、私は安心した。

父は北川先生のことを見て、とても喜んでいるようだった。

北川先生とお酒が飲みたい、と言って、ほんの少しだけどビールを舐めさせてもらって
嬉しそうだった。

そしてそれ以上は欲しがらなかった。

「いやあ僕のこの病気、飲みすぎですね。北川先生も気をつけてくださいね。」

と、そう父は愉しそうに話すのだった。

つづく

小夏庵ものぞいてくださいね。

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ありがとうございます。

by akageno-ann | 2009-01-24 21:25 | 小説 | Trackback | Comments(2)

Commented by ぱにぽぽ at 2009-01-25 22:21 x
北川先生の近況も知れて、そして翔一郎さんもその訪問が美沙さんと共に心から歓迎していると知れて、まるで旧知の友に会えたように私もうれしかったです。

理子ちゃんには、敏い心があるんですね。私、理子ちゃんみたいな娘さん、とっても親近感を覚えてます。ちゃんと自分の母を護り、そして父を愛する彼女の素直さに感銘を覚えます^-^
Commented by akageno-ann at 2009-01-26 13:31
子供の鋭さは、特に親に対して大きいように思うのです。
なんとなく感じることは意外にあたっていて・・ふと自分の
幼かった日のことを思い出して、あとからわかる感情というのも
ありますね・・

子供はいませんが、こういう子供の存在をしっかり書いてみたいです。いつも応援本当にありがとう。
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