母の顔
第2章 その6
翔一郎の病は血圧降下のための薬剤によって、経過は安定しひたすらリハビリの生活に入っていた。
少し能力的に子供かえりのようなところがあって、母の信子は息子の突然の変貌に対応できず、次第に見舞いが遠のいていた。
妻の美沙にとってはそれはかえって都合の良いことであったのかもしれない。
母が来るとどうしても緊張する翔一郎を感じていた。
母は、元のようにならなければならない、と焦りをそのまま息子にぶつけるのだった。
「はやく、しっかりして学校にもどらないといけないでしょう!」
それが母の一番の望みだったと思われた。
母は教員として退職まで頑張った人だから、息子のこの状況を情けないとさえ思っていた。
「美沙さん、翔一郎はもう復帰は無理だから、貴方頑張って教育界にもどりなさい。」
などという日もあって美沙を困惑させた。
美沙はフルタイムで働くのはこの翔一郎のリハビリに付き合う時間やふれあいの時間が減るのはどうしても嫌だったのだ。
そんな思いを娘の理子は自然に感じ取り、母と共に今の父を支えて行こうとしていた。
そんな母の本当の心のうちを先日の北川先生という人の出現でちょっとわからなくなっていた。
父親が美沙という人を母のように慕って、リハビリに頑張っているようなところがあったからだ。
北川先生とはあの日、一緒に父のリハビリ病院のそばで食事をした。
北川先生は理子に気を使って、あまりインドの話をしなかったけれど、母と二人はとても親しいのだと思えた。
帰りに母と二人はしっかり握手して別れた。
その夜の母は、父が病気になってから初めて、華やいだ顔をしていた。
つづく
「小夏庵」ものぞいてくださいね。
by akageno-ann | 2009-01-26 13:26 | 小説 | Trackback | Comments(11)
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fmutu at 2009-01-27 10:03
いくつになっても子供は子供のままなんでしょうね。。。
受け入れるのに時間必要ですね。
受け入れるのに時間必要ですね。
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ann
at 2009-01-27 21:05
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at 2009-01-27 21:49
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
脳の病気は時に子ども返りをさせてしまう気が、私もします。
そんな姿を見るのは母親も妻も娘もつらいですよね・・・。
でも自分の息子がそんな風になっていく姿を見るのは
母親が一番感情的につらいですよね、やっぱり。
妻は将来の不安がいっぱい、娘はけっこう冷静的。
これは我が家です(^^;)
annさんの表現はいつも細かくてすごいですっ
そんな姿を見るのは母親も妻も娘もつらいですよね・・・。
でも自分の息子がそんな風になっていく姿を見るのは
母親が一番感情的につらいですよね、やっぱり。
妻は将来の不安がいっぱい、娘はけっこう冷静的。
これは我が家です(^^;)
annさんの表現はいつも細かくてすごいですっ
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at 2009-01-28 13:33
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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akageno-ann at 2009-01-28 20:35
CHILさん、そうですか・・私の知る家族も
娘の存在大きかったです。
娘はあまり重大視しないんですね。
でも結構子供でもさりげなく上手に介護するんです。
そして叱ることも自然に・・
そんなことを垣間見ていた私です。
娘の存在大きかったです。
娘はあまり重大視しないんですね。
でも結構子供でもさりげなく上手に介護するんです。
そして叱ることも自然に・・
そんなことを垣間見ていた私です。
♪ 北川先生が登場! 相変わらずに 物静かなのに存在感たっぷり。
んふふ。懐かしいです。
美沙さん、ご自分の流産や怜子さんの病気 それから インドでの苦労 そんな様々な経験から
あるものを そのままに受けとめる 生と寄り添って生きていく
そういうことを自然に身につけてきたんでしょうね。
だからといって 上手くコントロールは出来ても その心のそこの感情までもを全て 無くしてしまったわけじゃないから
ほんの ちょっとした事でタガが外れてしまうと 本当の感情がこぼれてきてしまう。
その きっかけが北川先生だったのですね。
美沙さん しっかりと泣けてよかった。
んふふ。懐かしいです。
美沙さん、ご自分の流産や怜子さんの病気 それから インドでの苦労 そんな様々な経験から
あるものを そのままに受けとめる 生と寄り添って生きていく
そういうことを自然に身につけてきたんでしょうね。
だからといって 上手くコントロールは出来ても その心のそこの感情までもを全て 無くしてしまったわけじゃないから
ほんの ちょっとした事でタガが外れてしまうと 本当の感情がこぼれてきてしまう。
その きっかけが北川先生だったのですね。
美沙さん しっかりと泣けてよかった。
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akageno-ann at 2009-01-30 20:50
cacaoponさん
これまでの記事をおもいださせてくださって・・とっても感謝しています。懐かしさは私もあります・・笑
登場させてもらった人々へ愛情を持っています・・
人間の心のひだって複雑でだからすごく素晴らしいと
思いつつ・・美沙を書いています・・
これまでの記事をおもいださせてくださって・・とっても感謝しています。懐かしさは私もあります・・笑
登場させてもらった人々へ愛情を持っています・・
人間の心のひだって複雑でだからすごく素晴らしいと
思いつつ・・美沙を書いています・・
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at 2009-01-31 17:32
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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akageno-ann at 2009-01-31 18:57
とんでもない・・よく読んでくださってありがとう gekoさん
これは、私の独りよがりな描き方のせいですが・・
理子の父親翔一郎は美沙にとって夫というより息子のような
感じになってしまっているのを娘の理子は感じたんですね・・
だから美沙は北川に心ゆらいでいないか?と心配しているのです・・。
これは、私の独りよがりな描き方のせいですが・・
理子の父親翔一郎は美沙にとって夫というより息子のような
感じになってしまっているのを娘の理子は感じたんですね・・
だから美沙は北川に心ゆらいでいないか?と心配しているのです・・。
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happygeko at 2009-02-01 11:14