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見舞いのあり方

第2章 その8

私の目からみて、母 美沙はとても心が強くなっていった。

本来はほんわかとしたユーモアのある人で、あまり苦労を知らない人なのかと思わせる感じだが、今回の父翔一郎の病気以来、母は私の今までに知らない面を見せるようになった。

特にいろいろに訪れるお見舞いの人々に対して、母は心を閉ざしていることがあった。

最初親戚関係が来ていたときは、祖母が殆どの応対をしていたので気づかなかったことだ。

父の仕事関係の人々は教師が多いのだが、あるとき養護教諭の先生がいらして

「片山先生はまめに人間ドックをなさらないからいけないんです。あれだけお仕事されて無理されてたんですね。」

その言葉は心からの父への見舞いの言葉であったが、家族には痛烈な批判になっていた。

母は

「申し訳ありません。ご心配いただいて・・」

と、それだけ言って黙って父に寄り添っていた。

そのあともその人は、病気に対する知識や病院の内情についていろいろと詳しく話してくれていて、最後に父に

「頑張ってくださいよ。学校は先生を待っていますよ。」

と、強く父の手を握った。

しかし父はあまり大きく反応せず、その人にさよならの手を振った。

母はただ深々と頭を下げていた。

そして以来またその人がくることはなかった。

北川先生がいらしてから、私は大人の見舞いの仕方につい考えるようになっていた。

見舞いってそう簡単に考えてはいけないような気がしてきた。

つづく

小夏庵ものぞいてくださいね。

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by akageno-ann | 2009-02-01 11:29 | 小説 | Trackback | Comments(9)

Commented by panipopo at 2009-02-02 15:07 x
annさん、こんにちは。
病気になって入院すると普段見えないことが見えて来てしまうんですね。。。なんだか切ないですね。確かにお見舞いはお互いに気を使うと思います。難しいですね。

美沙さんの中でもいろんな思いが去来しているんでしょうね。
理子ちゃんの意見を楽しみにしています。
Commented by CHIL at 2009-02-02 16:47 x
病気と言うのは身体にやってくるものですが、
同時に本人の心や、介護者の心まで
平常ではいさせなくなりますよね・・・。
そんな時にお見舞いにいって言葉をかけるのはとても悩みます。

でも・・・人と人が関わっていくには、
気持ちのすれ違いとかは絶対にさけられないことで、
全ては時が経つとお互いにわかったりするんですよね、きっと・・・。
Commented by fmutu at 2009-02-03 14:34
本当にそうですね。。。
何気ない言葉が人の心を明るくさせたり、どん底にさせたり。。。
特にデリケートな時期ですからね。。。
息子が生まれてすぐ原因不明の蕁麻疹ができて、入院したとき
ある人に、お腹にいるときに体に悪いもの食べたのでは?と言われて。。。落ち込んでいるところに重石のせられました。。。。
言葉は時と場合をよく考えないとですね。。。
Commented at 2009-02-03 18:18
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by akageno-ann at 2009-02-03 20:08
panipopoちゃん、人が弱っているときは気の遣いかたもちょっと特殊のように思いました。でも子供は純粋でいいんですよね・・
大人はいろいろな柵に囲まれてどうしても閉鎖的に
だから私も理子に期待します。
Commented by akageno-ann at 2009-02-03 20:10
CHILちゃん、そうなんです・・そしてそのすれ違いがまた良い風になっていったりするから人間のかかわりはずっと捨てたものではないのだと・・思いました。
いろいろな変化を描いて見たいのです。
Commented by akageno-ann at 2009-02-03 20:11
fmutuさん、そうなんですよね・・病気の人に寄り添うって、とても大事なことだと思います。
そうでしたか・・皆さんいろいろな思いをされてますね。そしてそういう方は人に本当に優しいですね。
Commented by cacaopon at 2009-02-05 22:44 x
♪ うーん。 本当に 敏感なお話ですね。
難しいなあ。 
やはりこういう場面では 余計な気をまわし過ぎないで そっと訪れてさっと 帰る それがいいのかも。

看護にあたる ご家族も本当に大変ですね。

美沙さんの様子が とても気になります。

Commented by akageno-ann at 2009-02-05 22:57
cacaoponさん、余計な気をまわしすぎない・・私もこのことを大事にしています。そうしつつ相手の気持ちになるべく添いたい
そんな風にお見舞いを考えています。
お見舞いは嬉しいものですから、大事にしたいです。
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