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よう子二世

第2章 その10

「めい子ちゃん、よく来て下さったわね。ご両親は今メキシコシティなのね。」

「はい、日本人学校の二年目です。」

「貴方は大学生だから行かなかったの?」

「はい、それが一番の理由でしたが、母と少し離れたかったのです。」

平田めい子は、そうさらりと言った。


理子は母美沙とそのめい子の会話を理解できぬままに聞いていた。

この二人は久しぶりに会ったはずなのに、暗黙のうちに何かをわかりあってはなしているようなのを肌で感じていた。
めい子はふっくらとした優しい表情の女性で突然の出会いにも理子は彼女を自然に受け入れることができた。

父翔一郎のことも懐かしさと、それゆえに変わり果てた様子にショックが隠しきれないようで、言葉少なにもなっていた。

その場のムードを押し計ってか、美沙がすぐに提案していた。

「めい子ちゃん、今日は一緒に夕食をどこかで食べましょうよ。
理子も大学生活をお聞きしたいでしょうから。」

その言葉にめい子も理子もすぐに応じて、3人は翔一郎の病室を離れることにした。

「貴方、めい子ちゃんとゆっくりおしゃべりしてきますね。」
と、美沙が語りかけると、翔一郎はにこにこして頷いていた。

理子には父がめい子をしっかりと認識できたと感じた。

まだ4時という早い時間であったので、3人はそこから少し遠出になる銀座に向かうことにした。

美沙は外食の好きな人であったが、翔一郎の入院以来その機会が本当に少なくなっていた。

家には姑信子もまっているし、女3人で片寄せあっての生活だった。

しかしこの日の母はいつかの北川先生の来訪依頼の元気があると、理子は思っていた。

3人は電車を乗り継いで銀座に出た。

その間もめい子はなるべく理子に話しかけていた。

「理子ちゃんはどんな趣味があるの?」
「音楽は好きなの?」
など聞くと、理子も素直に子供らしく返事していた。

美沙は、一人っ子の理子に良い姉的存在ができた、と心が軽くなっているのがわかった。

美沙と理子との会話は最近、母子というよりは、同士のような友人のような会話になっていたのだ。翔一郎が倒れて以来、時には理子が母を支えるような場面も多くあった。

だが、理子はまだまだ中学生である。
そのことに気づかされたような美沙がいて、そこにそっと手を差し延べる めい子がいた。

3人はイタリアン料理のレストランに入った。

まだ5時を回ったところで店内に一番に入った。

店のスタッフは若い人々で気さくで明るかった。

3人はお任せコースを頼み、美沙とめい子はグラスワインを頼んだ。
理子にはオレンジジュースをオーダーしてグラスをあげて乾杯した。

「めい子ちゃん、本当にお久しぶり。いらしてくださって嬉しいわ。」

「理子ちゃん、はじめまして・・仲良くしてね」

「どうぞよろしくお願いします」

そんな風に愉しい晩餐が始まっていた。

美沙にはそこにいる平田めい子がその母親のよう子の二世とは
思えないでいた。

めい子はとても溌剌として爽やかな女性に育っていたのだ。

つづく

小夏庵ものぞいてくださいね。

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by akageno-ann | 2009-02-05 22:35 | 小説 | Trackback | Comments(7)

Commented at 2009-02-06 09:25
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by CHIL at 2009-02-06 16:20 x
めい子さんはよう子さん2世ではないのですね。
ほっ(^^)
理子ちゃんにとって頼もしいお姉さん的存在、
必然の出会いなのでしょうね♪
理子の心にたまっているものが吐き出せて溶けるような、
そんなお姉さんでありますように(^^)
Commented by panipopo at 2009-02-06 16:23 x
どうしてめい子さんがよう子さんのようにならなかったのか、そしてまだ交流があるのか。。。とっても知りたいです!これからそれが解き明かされるのかしら?

理子ちゃんにとっても子供らしく話せる相手が、それも姉的存在のめい子さんが現れてよかったですね。美沙さんの心もときほぐれていくのが、とってもうれしいです。^-^

どんな話題が出て来るのか、次を楽しみにしてますね!
Commented by ann at 2009-02-07 10:35 x
CHILちゃん 子供たちって本当にいろいろな場で影響されるみたいですね。めい子は小さかったけれど大人との多くの出会いをしたようで、母のことを客観的にみながら育ったという背景があります。
良い出会いになりたいと思ってます。
Commented by ann at 2009-02-07 10:38 x
ぱにぽぽちゃん、期待してくれてありがとう
とってもうれしい・・そして今晩アップする予定です。
どうぞよろしく!一人っ子の寂しさはあっても良さも多い、と
実際の一人っ子ちゃんから聞きました。
そのことがとっても理解できるようになりました。

そして人との出会いは偶然のようであって必然だと
思うのです。
Commented by cacaopon at 2009-02-07 19:44 x
♪ 病室が舞台である事が多かったので こうやって 外出すると 少し読み手も緊張感が和らぎますね。
゛インド〝では 美味しそうなお食事のシーンがとても多かったのを思いだしました。
お若い女性二人と囲む テーブル。 とても楽しそうな晩餐が始まりそうです。

 
Commented by ann at 2009-02-07 22:47 x
cacaoponさん、そうかあ・・緊張感一緒に感じてくれて
ありがとう・・そうです・・私も外へ出したくなってます・・
美味しいところにしました。
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