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親子の絆

第2章 その15

翔一郎はマイペースで回復しているようであった。

一つのきっかけは彼の得意とするイラストだった。

親子の絆_c0155326_21564829.jpg
始めはアニメのトトロやミッキーマウス スヌーピーなど理子がリクエストすると
何も見ないで、オリジナルに近いものを模倣したように描いていた。

美沙は、インドの生活を少し思い出したような夫に、ふとその頃をもっと思い出させたくて
様々なインド時代の写真を見せた。

その中でも翔一郎が特に興味を持ったのは、翔一郎自身がデリーの街角で撮影した親子の牛の写真だった。

「ああ、この牛を撮った日のことをよく覚えているよ。ラジパトというマーケットだった。
暑くて自転車で買い物に行ったが、フラフラしたよね。」

そういう翔一郎に美沙は

「そうそう、私はサングラスのメタルフレームが熱せられてこめかみから熱が伝わって。驚いて急いで外したの。暑かったわね~~あちらに渡ってすぐの頃でなんでも物珍しかったのよね。」

その日、彼はこの牛の親子をイラストとして描いた。

そして慈しむ表情を理子に移して

「この子牛のように理子は可愛い赤ちゃんだったよ。」

そう言うのだった。

理子は、父にインドの風景を描いていってほしいと、その時思った。

自分の知らないインド、そこに両親が住んでいたこと、そこでの生活の様子にとても興味が持てた。

美沙もまた、あの現地でなかなか絵を描こうとしなかった翔一郎が今こうして描き始めたことに不思議な時の流れを感じていた。

人間はこうして人生を紡いでいるのだ、と感動に似た感情が湧いてくるのだった。

つづく

  「小説及び使われる絵や写真の無断転載はお断りいたします。
    よろしくお願いします。」

小夏庵ものぞいてくださいね。

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by akageno-ann | 2009-02-13 22:21 | 小説 | Trackback | Comments(8)

Commented by cacaopon at 2009-02-13 23:09 x
♪ 過去を思いだすときに その当時に感じた温度や湿度 それから匂いまでも不思議によみがえることありますね。

インドの暑さ それは忘れる事のない 独特のモノなんでしょうね。

インドでは 牛は神様なんですよね。(あれ 神の使いだったかしら・・・)

私の中にも 行った事もない、こちらでしか体験したことがないはずの インドが不思議に蘇ってきました♪
Commented by fmutu at 2009-02-14 10:26
優しい表情の牛さんですね!
記憶をイラストにする。。。いいですね!
インドのどんな光景が絵になるのか楽しみですね!

お父様の娘さんに対す愛が。。。ふんわか流れてきます~~♪
Commented by CHIL at 2009-02-14 17:22 x
私の父は仕事人間でしたが、
誕生日カードに自筆の似顔絵のイラスト描いてくれたり、
父との唯一の交流は「絵」であった気がします。

子を慈しむ母親牛の優しい表情の絵、大好きです。

理子が今どんなに未知の国インドを知りたいかを
感じています(^^)


Commented by panipopo at 2009-02-14 17:43 x
ann姉さん、こんにちは☆
ハッピーバレンタイン!

翔一郎さんの思い出のインドが病気の後によく蘇って絵を描いて懐かしむことができるのは不思議な気持ちでしょうね。
何か病気がきっかけで封印されて来た思い出が絵になって、それがリハビリの役に立っているのは素晴らしいことです。
何がきっかけで、回復するかわからないですね~!
理子ちゃんが抱くインドのイメージはどんなふうに彩られるのかしら、って楽しみにしています★

Commented by akageno-ann at 2009-02-14 22:09
cacaoponさん
インドの牛は最高の神シヴァが乗る乗り物なので・・決してたべない・・と聞いてます・・そう神の使い・・と言う感じよね
ノラ牛はたくさんいて、目がやさしいの・・決してきれいではなくて
そうその周辺の臭いや空気も思い出しますね。
Commented by akageno-ann at 2009-02-14 22:11
fmutuさん
絵が描けるってうらやましいです・・私の頭の中にインドの光景はしっかり張り付いているのに・・絵にするとイメージが違うの
貴方がご覧になったら素晴らしい絵になると思います
画家田村能理子さんをご存知ですか?素晴らしいインドなどの女性を描いていらっしゃいます。
Commented by akageno-ann at 2009-02-14 22:13
CHILちゃん、ノラ牛がみな優しい顔なのは、やはり人間と共存できているんでしょうね・・仕事人間の父というのは本来ありがたいのですが・・そうでなくなったときにそれまでのふれあいの時間をちゃんと調整してもてるのね・・そう思います。
理子に伝えるインドや世界感・・ちょっと愉しく想像します。
Commented by akageno-ann at 2009-02-14 22:20
panipopoちゃん、ハッピーバレンタイン・・あなたのお菓子が
楽しみ!
きっかけって本当に不思議だけど、それぞれにあったきっかけが
訪れるのね・・そしてそのことで人生が大きく変わるのだなあと思います。彩られる・・という言葉に感動しちゃった・・
そうそんな感じに描けたらいいなあ・・
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