懐かしい思い出
第3章 その2
美沙はデリーで生活していた頃を波が寄せるように思い出していた。
理子はデリーを全く知らずに生まれてきたので、その養育に打ち込んでいたせいもあるが会えて、彼女にデリーのことを知らせる機会がこれまではなかった。
だが翔一郎を見舞う平田よう子夫妻の娘めい子の出現によって、インドのデリーの暮らしを少しずつ話すようになっていたのだ。
その夜はまためい子を囲んで三人で気楽なファミリーレストランで食事をしながらデリー時代の話になっていた。
「美沙おばさんは本当に優しくて私を心から可愛がってくださったのを、よく覚えています。
おじさんは私のことを絵に描いてくださいましたよね。今でも小さな額にいれて部屋に飾ってます。」
「めい子ちゃんは本当にあんなに幼かったのにデリーのこと覚えているのね。
インドはやはり強烈な印象なのかしら。」
理子は二人の話を興味深く聞いていた。
その夜はメキシカン料理フェアをやっているこの店で、平田夫妻が今派遣されて、頑張っているメキシコにも思いを馳せた。
トルティーヤというインドのチャパティにも似たものに、アボカドのディップと野菜を巻いて、少し辛目のソースをつけて食べるのであるが、辛いものが好きな理子は初めての味にも臆せず、喜んで食べていた。
食が合うと、この3人は話も食も弾んで傍目からも実に愉しそうな親子の食卓のようにになっていた。
めい子は心をすっかり開いている。
「美沙おばさん、母とは喧嘩をしたのですか?」
唐突のようだが、めい子はこのことは一番聞きたいことであった。
20年たった今、たとえ喧嘩をしていたとしても、それは時効になっている、と美沙はは心が軽かった。
「喧嘩はしていないわよ・・本当よ。でも最初にとても仲がよかったので、最後のほうは心が離れていることはあの時の周囲の人にもわかったようだったの。私はそれが残念だったわ・・」
「母は、美沙さんが羨ましかったんだわ。子供がいなくて自由だって・・いつも言ってたから・・
でも、それって私を邪魔にしてるってことだもの。すごく寂しかったです。」
美沙はそういうめい子に驚いて
「めい子ちゃん、それは違うわよ。今とても思い出すのは デリーに赴任する時の飛行機で、まだだっこされていた貴方をしっかりと抱きしめて、様々な不安にかられていらした姿よ。」
めい子は『え?』と耳を傾けてきた。
「多分あなたのご両親はインドでの生活の中で、めい子ちゃんが病気になったり怪我をしたり
インドの人を怖がらないかなど・・それはたくさんの心配をされていたと思うの。現に日本からの荷物の半分以上があなたのためのものだったのよ。」
理子は母の言葉を静かにかみしめるように聞いていた。
「母は私といつも父を取り合うようにしていたんですよ。」
めい子はこれは言っておきたいとばかりに話した。
「そんなこともあったわね。お父さんの平田先生はご自分の意志で在外のしかもインドの日本人学校に派遣されることになって、連れて行くあなたたちに不自由な思いをさせられない、とそれは責任感強くお持ちでした。」
美沙は自分で話しながら自分の思いをここでまた整理しているようであった。
つづく
注 「小説及び使われる絵や写真の無断転載はお断りいたします。
よろしくお願いします。」
「小夏庵」ものぞいてくださいね。
by akageno-ann | 2009-02-16 22:10 | 小説 | Trackback | Comments(12)
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at 2009-02-16 23:26
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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at 2009-02-17 12:11
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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at 2009-02-17 12:12
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
インドにいる間の進行形だった時のお話・・・
帰国して何年も経ってからするインドでのお話・・・、
読み比べると、みんなが成長してきていると感じたり、
違う視線で前の小説を感じることが出来たり・・・。
続編の楽しみと、新たな物語の展開を楽しんでいます。
帰国して何年も経ってからするインドでのお話・・・、
読み比べると、みんなが成長してきていると感じたり、
違う視線で前の小説を感じることが出来たり・・・。
続編の楽しみと、新たな物語の展開を楽しんでいます。
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panipopo
at 2009-02-17 18:04
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ann姉さん、今日の思い出話は、美沙さんの観点(客観的な)からのよう子さんとめい子さん家族とのつながりが垣間見れて興味深かったです。
よう子さんはまるで幼いお嬢ちゃんがそのまま大人になってしまった感じのような方ですよね。
でも、ちゃんとめい子さんにも母親のよう子さんの愛情をこうやって伝えてあげられるは、美沙さんしかいないな、って思いました。
今日のお話も、スラスラと読めてよかったです^-^ どうもありがとう!
よう子さんはまるで幼いお嬢ちゃんがそのまま大人になってしまった感じのような方ですよね。
でも、ちゃんとめい子さんにも母親のよう子さんの愛情をこうやって伝えてあげられるは、美沙さんしかいないな、って思いました。
今日のお話も、スラスラと読めてよかったです^-^ どうもありがとう!
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daikanyamamaria at 2009-02-17 18:47
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CHILちゃん
at 2009-02-17 22:32
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ann
at 2009-02-17 22:34
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ぱにぽぽちゃん、いつもだれも優しさや厳しさ、ときにわがままがあるように思います。人が人の良さを引き出す・・そういう関係が理想的ですね。美沙は辛い部分を背負ってそれがわかったのかもしれないと思います。
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ann
at 2009-02-17 22:34
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マリアさん、いらしてくださってありがとう
私も貴方にお返事に参ります。
私も貴方にお返事に参ります。
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at 2009-02-17 23:21
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
♪ うーん。 さすがannさん。
インドでの経験を経て間もなくではなく 時間を置き ゆっくりと振り返る事が出来るようになった 今だからこそ!
の 説得力がありますね。
新しい桜の花 舞散るブログスキン。
花びらの一つずつが 過去数十年の それぞれの思い出をたどるようにもみえて なんだか感慨深いです。
とっても いいですね♪
インドでの経験を経て間もなくではなく 時間を置き ゆっくりと振り返る事が出来るようになった 今だからこそ!
の 説得力がありますね。
新しい桜の花 舞散るブログスキン。
花びらの一つずつが 過去数十年の それぞれの思い出をたどるようにもみえて なんだか感慨深いです。
とっても いいですね♪
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by
ann
at 2009-02-21 10:49
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