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人生の岐路に

第3章 その10

美沙が久しぶりに手にしたのは 『アンの愛情』だった。

アンは孤児であったが、マリラとマシュウという養父に引き取られて熱心に学業を修め二人にとってかけがえのない養女として成長していった。

本当は力仕事を手伝う男の子を養子に迎えるはずだったマリラとマシュウの兄妹はこのとんでもない間違えである女の子との取り違いに大いに困惑する。

だがアンの持つ明るさや素直さ芯の強さと賢さ そして何より優しい思いやりある心に次第に魅かれていくのだ。

美沙は中学校の国語の教師であったので、生徒にこの物語についての解説を何度も行っていた。

全編に流れる旧約・新訳聖書の教え、カナダプリンスエドワード島の風物と風習 19世紀後半から20世紀前半の歴史的背景、文学的作品の参照は単なる物語の展開に終わらない、深い道筋を読者に与えていることを生徒に知らせたかった。

『アンの愛情』を3日ほどかけて読み終えようとする終章近くに、重篤な病にかかった幼馴染みのギルバートブライスの傍らにいることのできなかった。

アンはそのとき初めて、ギルバートこそが深く愛し合い人生を共に歩む伴侶であることに気づくのであるが、そのことに気づくことがあまりに遅すぎた・・・と 深く悔やむ彼女がいた。

アンとて人の子、甘い恋に身をやつし、ギルバートの心からの求婚に気づかないままの年月を過ごしてしまっていたのだ。

だが、ギルバートはその病から復活の兆しを見せたと、長い夜を一睡もせずに祈ったアンがその事実を知ったときアンの唇に浮かんだ句は旧約聖書詩篇30章5節

『夜はよもすがら泣き悲しんでも、朝と共に喜びが来る』

であった。

美沙はこれまでの様々な悲しみの出来事の後に必ずこの言葉を唱えていたことを思い出した。

もしかして今のこの状況からもまた新しい喜びの朝がくるのだと・・・

そう思えそうな自分がそこにいることに気づき、ほんの少し若やぐことができたように思えるのだった。

つづく

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法華経寺の絵
ブログひげじい~脳梗塞からの軌跡ひげじいさんの作品です。

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by akageno-ann | 2009-03-01 22:17 | 小説 | Trackback | Comments(11)

Commented by ba-chama at 2009-03-02 00:08 x
素敵でした 心を強く感じます。
Commented at 2009-03-02 01:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-03-02 08:43
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Commented by panipopo at 2009-03-02 16:29 x
どんな夜であっても、夜明けは必ず来て明るくなるってことでしょうか。
美沙さんにとっては、体調の変化もあるし、そういうときに頼る人もなくて反対に頼られる身であるのが辛い時もあるでしょうね。
人間っていくつになっても、学ぶものなんでしょうね。
美沙さんの心の支えになる良書があることは素晴らしいことだと思いました。
Commented at 2009-03-02 22:10 x
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Commented at 2009-03-03 02:03
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Commented by ka-chan-anone at 2009-03-03 16:22
CHILです。
思い出しました。
父が入院している時、友人から「ここに地終わり、海始まる Byカモン・エス」という言葉を教えてもらって、父の枕元にこの言葉を書いて貼ったんです。大地の終わりには海が続いていて、海の終わりには大地が存在してる。何かの終わりは何かの始まりなんだよって、父に言いました。脳梗塞でお父さんは終わらない・・・って言いたかった。

赤毛のアンの時代背景や新約聖書の教えのこと、私も美沙さんの生徒になりたかった(^^)
Commented at 2009-03-04 05:59
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Commented by akageno-ann at 2009-03-04 08:01
こちらへのコメントに心から感謝をします。
心を込めて書いたものです。
人生には立ち止まらなくてはならないときがありますね。
そういう時間をちょっと過ごしておりました。
また続けてまいります。
どうぞよろしくお願いします。
Commented by cacaopon at 2009-03-10 00:12 x
身にしみて・・・から 朝と共に喜びが来る 
ここまでの 心の回復には本当に強さが必要です。
または それが時間であるときもあります。

それから 愛 であることも♪

Commented by ann at 2009-03-11 09:16 x
この言葉すきなのです・・・ここにこうして書き
cacaoponさんにも受け止めてもらえて嬉しいです。
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