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退院まで

第4章 その7

退院に際して一番大切なことは何かと考えると、それは家族の結束のようだ。

そう理子は感じていた。

悲しみから病気になった翔一郎を受け入れられない時期もあった理子の祖母信子も

家の改装の監督をしつつ業者と会話をしながら、自分の役割はまだあると感じられたようで

まもなく80歳に手が届くというのに足腰も元気でしっかりと生きていた。

近所の人々にも翔一郎の退院を話しいろいろな障害者に対する市の対応についても積極的に取り入れようとしていた。

さすがに40年以上この地に住んでいる信子は知り合いや友人が多くいて、こういうときは皆親身になってアドバイスしてくれているようであった。

中にはもちろん好奇心で近寄ってくる人もいたようだが、信子はそういう人であっても

「彼女は本当は良い人なの。」と心配する美沙にその人を庇うほどのゆとりがあった。

80年の歳月を生きるというのは、様々なことを許せるようになるのかもしれない、と感じる美沙だった。

一日おきにヘルパーの人も来てくれる事になり、それだけ翔一郎の様子が重傷ということなのだが

その人にあってみると40代後半の元気な婦人だったのでほっとできた。

翔一郎が大きい体なので、支えるにあたってその介助する側の体力は大変重要なことだったのだ。

それでも実際にどれほどやってもらえるのかは、始まってみないとわからないことだった。

ここで取り越し苦労はやめよう・・・と美沙も信子もそれぞれに思っていた。

家族は3人いるのだ、と強く感じていた。

そこに月に二度ほど病院に見舞ってくれていた平田めい子は、翔一郎の退院を理子からメールで知らせられたらしく、病院に現れてその祝いの言葉と自分も何か手伝いたい、と申し出てくれた。

「めい子ちゃん、ありがとう。もしかまわなかったら、理子の家庭教師がわりに遊びにいらしてね。」

美沙はそうめい子に頼んだ。

「はい。喜んで伺います。それから退院の日はいつですか?私お手伝いに来ますから。」

そう熱心に申し出てくれた。

美沙はこのめい子の本当の優しさに心が素直になれた。

「いいのかしら・・本当はおことわりするべきなのに・・その申し出とても嬉しいの。」

「もちろんですよ。私少しは役に立てますよ。」

めい子は笑いながら応えて美沙の手をとった。

つづく

退院まで_c0155326_8231564.jpg

ブログひげじい~脳梗塞からの軌跡ひげじいさんの作品です。

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by akageno-ann | 2009-03-11 08:01 | 小説 | Trackback | Comments(6)

Commented by ka-chan-anone at 2009-03-11 14:49
ついに在宅の日々が始まりますね。
家族が居るってことが美沙にとっておおきな支えになると思います。
母を見てきたせいか、
翔一郎さんよりも美沙さんを慮ってしまいます。
Commented by panipopo at 2009-03-11 17:13 x
やはり40年も地元にいて、いろんなことに関わりがあった信子さんは、いざという時には頼もしい限りですね。
ヘルパーさんもついてくれて、めい子さんも退院のときには助けてくれるとなると、本当に人の優しさやありがたみが身に沁みますね。
事前に心配するよりはきっと成るがままに受け入れてしまった方がうまく行くことがありますからね。
でも、きっと介護は生身の人間、それも家族なので、計り知れないいろんなことがあるんだろうな、って思います。
Commented by ann at 2009-03-12 08:10 x
CHILちゃん、慮るという言葉が好きです。
本当に彼女の動向でうよね・・周囲との関連も
大事に書いていきたいです。
Commented by ann at 2009-03-12 08:13 x
ぱにぽぽちゃん、
40年て大きいですね、そしてこういう住宅街は高齢化が進んでいるの。だから思わぬ偶然にも出会います。互いに寄り合って暮らしていく時代なのかもしれません。めい子の気持ちに癒されます。
そしてこれからに少しでも期待が持てそうです。
生身の人間の暮らしそのもですね!
Commented by cacaopon at 2009-03-24 22:44 x
♪ 他人にもきちんと甘えられる人って 本当に凄いと思うのです。
ただただ甘えるという意味ではなく 上手に書けないけれど
自分がしっかりしているから 他人にも心を許し優しさに甘える事が出来る
そのように思うのです。大袈裟な解釈かなあ。

家族だけでがんばるのでなく ヘルパーさんやめい子さん 家族以外の風がおうちに入ってくるのはきっといい事ですね。
Commented by akageno-ann at 2009-03-26 22:52
あなたの言う通りね↑甘えることができる・・それは甘えたままではないのですものね。人と関わっていくにはその人を信頼していかねばならない。そのためにはやはりぼんやりはしていられないものね。
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