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病院から家まで

第4章 その8

その日はあっと言う間に来た。

東京から近郊都市の自宅までは車で渋滞がなければ1時間半ほどで帰り着く。

病人の翔一郎を乗せるのだから、なるべく道路事情の良い時間帯を、と考えて午前中の
10時出発にした。

前回救急病院からリハビリ病院に移動する時はあまりはっきりしてない意識の翔一郎を
不安でいっぱいで車に乗せたことを思い出していたが、今回は翔一郎の意識はしっかりしている。

家に帰ることも本人が楽しみにしている。
そのことが迎える側をほっとさせている。

家では信子が一応準備万端整えて待つこととした。

今日の昼食は自宅で久しぶりに4人揃うのだ。

それは理子にとって本当に嬉しいことだった。

家に父がいる、きっと気まずさはなくなるだろうと、若い理子はそう思えたのだ。

美沙はもちろん複雑な思いがある。

しかし今はこの若い理子の純粋さに心を委ねていこう、そう思えたらほんのちょっと喜びが増した。

めい子は大学は春休みだからと早朝にも関わらず8時半には病院に到着していた。

「おはようございます。今日は私はここでお手伝いしてお見送りしますね。」

病院の退院はかなりの荷物の整理があるのでその申し出は大変心強かったのだ。

美沙は、心から礼を言って、まだうら若いめい子の気持ちを素直に受けた。

「めい子ちゃん、本当にお世話になって今まで本当にありがとう。また改めて食事にでもお誘いしますね。
理子へのアドバイスにも感謝しています。」

めい子はにこやかな笑顔で応えた。

「美沙さん、どうぞこれからはお宅へも伺わせてください。
一回の乗換えで行ける距離です。今日はここで失礼しますが改めてお宅へ」

「でも、あなたの大事な時間をこうしてあまり割いてはいけないわ」

「私、やはり一人暮らしは寂しいのです。だから私のために」

そう訴えるめい子の目は真剣だった。

そうして話しながらも翔一郎の退院の準備は進められていった。

看護士が迎えの車の到着を知らせてきた。

つづく

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ブログひげじい~脳梗塞からの軌跡ひげじいさんの作品です。

 「ここに使われる絵や文章の無断転載は固くお断りいたします。
    よろしくお願いします。」

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by akageno-ann | 2009-03-12 08:34 | 小説 | Trackback | Comments(2)

Commented by crystal_sky3 at 2009-03-12 21:24
こんばんは♪
最近読み逃げですみませんm(_ _)m
遂に翔一郎さんの退院の日がやってきたんですね!
自分のことに置き換えて読んでいました。果たして美沙さんたちと
同じ状況下であったら・・・どのくらいの覚悟をもって退院する夫や
親を迎えられるだろう・・・と。
介護を受ける翔一郎さんの心境としてもおそらく複雑なこところも
あるかもしれませんね。でも、進んでいくしかない。
介護する・・・というよりも、むしろそれは今まで同様一緒に、強い
結束で家族として生きていくこと。。。そのものなのかもしれないですね。女性3代のそれぞれの翔一郎さんへの愛と3人の心の結びつきを強く感じます。

Commented by ann at 2009-03-13 07:22 x
クリスタルさん、丁寧な感想をありがとうございます。
そうなんですね・・進んでいくしかない・・私もそれを
感じてます。翔一郎がどれほど頑張る気持ちがあるか
それもこれからの課題です。
家族との絆・・どうやって深めるか・・日々の生活が
大切ですね・・
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