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父と娘

第5章 その3

理子は高校生活が始まって溌剌と登校していた。

父親が家に戻ってきたことを無邪気に喜ぶ高校生であった。

母親の美沙は全てを父の介護を中心に考え、毎日のスケジュールを立てていた。

それでも母は理子の弁当つくりには気持ちを込めてくれているようだった。

母の寝不足は間違いなく、理子は自分のことは自分でやらねばならない、と感じていた。

祖母の信子も料理はうまく、母と頑張っているが、80歳に手が届きそうな年齢なので、あまり無理はさせられなかった。

理子は決して哀しくはなかった。父親との病院での生活で障害者である家族がいることを自然に受け止めることができていた。

リハビリ病院でも父翔一郎のことを病人扱いするより、普通の健常の人に接するような雰囲気があり、その感覚を一番に受け止められたのは理子だった。

学業優先という立場にいる自分のことを、理子はそのままではいけない、と思っていた。
アルバイトもしたかったが、私学では公には禁じられているのでその分勉強し、余った時間は父との生活に喜んで費やしたかった。

毎日の学校での学習やクラブ、クラスのことを楽しげに車椅子に寄り添って話していた。

不思議なことにほかのことに喜びをあまり表さなくなっていた、翔一郎が理子の顔を見るだけで笑顔になり、理子の話を隈なく理解しようとする気持ちがあるように美沙には思えた。

ついそばにいて、言葉を挟んでしまいそうな自分を感じて、美沙は理子と翔一郎の時間は二人だけにするようにしていた。

自分の娘であっても理子に全てを任せてしまうことはできないし、また理子自身にどれほどの介護の力が備わっているかは、まだわからなかった。

しかし翔一郎の反応には大いに期待ができた。

今しばらくこの静かな状況を大事にしていこうと感じる美沙がそこにいた。

つづく
父と娘_c0155326_1214449.jpg

牧場公園
ブログひげじい~脳梗塞からの軌跡ひげじいさんの作品です。

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by akageno-ann | 2009-03-18 12:08 | 小説 | Trackback | Comments(5)

Commented by panipopo at 2009-03-18 19:00 x
難しいですねぇ。。。
↓の様子から、翔一郎さんがリハビリに消極的っていうのが意外だったのですが、やはりうちに戻ると意欲がなくなるのでしょうか?
私みたいにズボラだったら、それも自然だけれど、なんとなく翔一郎さんはみんなのお手本になるようなイメージがあったので、病気から甘んじてリハビリを疎ましく思うというのは意外でした。
私が美沙さんだったら、そんな甘やかしてしまう信子さんに歯がゆい思いを持って、イライラしてしまいそうです。笑

理子ちゃんの娘という若いパワーは何よりも素晴らしい外界の刺激を翔一郎さんにもらたすみたいですね。
これが何かの起爆剤になればいいな、って思います。
Commented by ka-chan-anone at 2009-03-18 21:47
娘は妻の立場と違って、すこし気軽な気持ちで接することが出来るから、それが翔一郎さんにとってもいいのでしょうね。私は入院中はそんな風に接しられたのに、父が退院してきて一緒に暮らし始めた時は父のあまりの変わり果てように、怒りがこみ上げそういうふうに接してあげられなくなりました。
今は反省の気持ちを込めて、理子には変わらずにいて欲しいと思います。理子にはめいこさんのような存在が居ることが支えになるようにも感じます。
私にもそんな存在が必要だったのだと思います。
Commented by ann at 2009-03-20 08:28 x
ぱにぽぽちゃん、とても暖かいコメントに小説の続きのような思いで読ませていただいてます。そのとおりなのですよ。
思いがけないことがこの家族にもいっぱい起こります。
人生って本当にだれしも波乱万丈で、でもそれは良いこともそうでないこともあるけれど、総じて素晴らしい人生に繋がってほしいんです。
Commented by ann at 2009-03-20 08:36 x
CHILちゃん、怒りを感じることもとても大事だと思います。
身近な家族が真剣なればこそ回復への道を歩むのだと
知っています。それなりに・・と感じてしまうとそこでとまって
しまうからです。絵を描くという気力、生活に前向きになる気持ちを
育てていくって大変だけど時間をかけないといけませんね。
貴方は今それを続けていらっしゃる・・
私はそれが素晴らしいと思うの
長い年月だもの・・私も頑張ろうと思いました。
Commented at 2009-03-20 13:23 x
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