シャンティを思う
第5章 その6
いよいよ在宅介助をうけることになった。
一番大事なのは自宅リハビリだと美沙は考えていた。
家族だけではどうしても徹底できないリハビリに 他人が介入してくれることで、少しでも翔一郎のやる気を起こしてもらいたかった。
幸いにして若い男性がきてくれることになって、体力的に安心できた。
翔一郎を支えるというのは容易なことではなかった。
家の廊下にはリハビリ用の手すりをつけ、少しでも足を前に出す訓練をさせたかった。
翔一郎本人の気持ちはどれほど前に向いているのだろうか?
美沙は測りかねていた。
あの負けず嫌いだった彼が信じられないほど、のんびりと構えているのだ。
それが脳の損傷に寄るものなのかもしれない。
徒らに励ましてはいけない、というが、様々な人々がどうしても適当に頑張れという激励をしてしまう。
しかし、そんな言葉も馬耳東風のようなそぶりを見せる翔一郎がいた。
「頑張る」と言っても、それが行動するという能力に繋がっていないのだ。
美沙は理子に精神的なリハビリを頼むことにした。
「理子ちゃん、お父さんは運動することより、貴方と競って絵を描きたいかもしれないわ。休みの日は一緒に同じものを写生するのはどうかな?」
その申し出に理子は
「うん・・私もそれがいいんじゃないかって思うの。一緒に何か描いて見るね。」
そう素直に応えてくれた。
『この子はどうしてこう伸びやかなのだろう?少しも哀しさを持っていないように思うのは思い過ごしだろうか?』
そんな気持ちもよぎるのだった。
理子が新しい人々との出会いに、その素直さで接し、その人々に可愛がられ良い関係を作っていくことに大人たちは援けられていた。
美沙はデリーのサーバントのシャンティを思い出した。
彼女は忠実で優しい家事手伝いを毎日続けてくれていた。
あの頃 美沙に子供がいればどんなにか可愛がってくれたであろう。
子育ての上手なシャンティにこの理子を会わせたいと、思うのだった。
つづく
注 「ここに使われる絵や文章の無断転載は固くお断りいたします。
よろしくお願いします。」
by akageno-ann | 2009-03-24 21:04 | 小説 | Trackback | Comments(0)