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ある洗脳

第5章 その7

訪問介護のスタッフは全部で2人が曜日を変えて、内容も違えて訪問してくれた。

リハビリは男性であったのでその力強い介助に翔一郎も安心して身を任せ、一歩でも足を前に踏み出す訓練を週二回午前中に行っていた。

しかし家に帰ってきてからはどうしても気持ちに緩みも出るし、母信子の感情的な声援も逆効果になったりすることがあって、思うような効果は出ていなかった。

しかし椅子に座ってテレビを見たり、時に理子と絵を描いたりする作業は比較的進んで行ってくれるようだった。

もう一人のスタッフは年配の女性で主に掃除を行ってもらっていた。

手馴れた様子で手際よく掃除をしてくれるのであり難かったが、身体障害者の家族を多く知っているせいか、彼女の持っている経験を言葉の端々に出すことが多くなっていった。

信子はそれを大変ありがたいアドバイスとしてよく話を聞いていた。

そしてその都度感心し、美沙に強く要求するようになった。

良さそうなことは全てやってみたいという勢いが信子の頭にはあったのだ。

それも当然のことであろう。

その信子の様子を見て、女性スタッフは主に信子と話をするようになっていった。

家族の中で患者とどうかかわるかは、そのキャラクターによって異なるのを在宅介護になってから強く感じる美沙だった。

それだけにこれまでとは違って日常のどの時間も夫翔一郎のことを中心に考える生活になっていったのだ。

外部の人が入ってくる家庭は、平穏な家庭ではなかった。

また介護の専門知識も不足している現状の中で、その専門家からの助言によって、単純に洗脳されてしまう者もでてくることを実際に感じていた。

人間は弱いものである。

一人で持ちこたえられない現実にふと人の意見をたやすく取り入れて、家族同士の亀裂が生まれることもままあることを美沙はまた新たに知っていった。

つづく

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牧場公園
ブログひげじい~脳梗塞からの軌跡ひげじいさんの作品です。

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by akageno-ann | 2009-03-26 16:35 | 小説 | Trackback | Comments(4)

Commented by CHIL at 2009-03-26 22:09 x
在宅介護、まさに弱い人間の部分のぶつかり合いの日々・・・
数年前の我が家を思い出しています。

うちは外部の人が入らなかったので、
どんよりとした空気が家の中にたまってしまったようにも思いますが

外部の人が入る弊害もあったりするのかもしれない・・・
介護って本当にむつかしい問題ですね。
Commented by panipopo at 2009-03-27 18:33 x
Ann姉さん、ごめんなさいね~!
この間は読み逃げして、今日まとめてこの前のと一緒によませてもらいました。
今、済州島からです。

在宅介護って本当に大変ですね。。。
なんだか美沙さんが哀れな感じがします。
と言うか、一生懸命頑張っているのに報われないのがかわいそうな。。。
内部分裂しないで、うまく理子ちゃんが付いてくれて頑張れるといいですね。

翔一郎さんも、きっと性格も少しは変わってしまったんでしょうね。
脳に傷害がつくと、性格も変わりますよね。
本当に辛いですね。。。
Commented by ann at 2009-03-27 21:30 x
CHILちゃん、介護って難しい・・だって本当にそれぞれの状況で違いすぎますよね。だから一般的なことをいわれても
それはうちの場合違うと、いうことがいっぱいです。
でもまた個々の幸せも違うように思えて、その幸せを探すことが大事なように思うの。
Commented by ann at 2009-03-27 21:32 x
panipopoちゃん、ありがとう!旅先からも読んで、書いてくださってるのね・・感謝!まとめ読みはとっても歓迎です。
在宅介護って大変だけどこれからはこういう介護が必要になってきそうよ・・そう若い力を借りて頑張っていきたいですよね。
脳って本当に複雑ですね。性格が穏やかなのは本当に幸運よね。
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