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アニバーサリー

第5章 その8

人生にはいくつかの記念日がある。

誕生日、結婚記念日、その二つが片山翔一郎に、その4月一緒にやってきた。

翔一郎と美沙は4月1日が結婚記念日だった。

今回で28年が過ぎていた。

教員は休暇中に結婚することが多い。

特に姓が変わる場合は4月の新学期にその変更があったほうがいろいろと都合がよく、美沙はその時期を選んでいた。

しかし結婚前の美沙に担任された教え子は、美沙を未だに旧姓で呼んでいる。

教師への思いはその当時の名前と一緒に繋がっているようだ。

4月17日は翔一郎の56回目の誕生日だった。

結婚記念日は意識しないまま、忙しさにかまけて忘れ去ってしまっていた美沙だったが、翔一郎の誕生日は賑やかに行おうと意気込んでいた。

もちろん理子もその思いは同じだった。

そして理子は平田めい子にその話をして、17日の当日に一緒に祝ってくれるように誘っていた。

理子とめい子がそのように親しいことを美沙は素直に喜べたのだ。

めい子の聡明さは心の優しさが加味されて美沙の心を打っていた。

めい子の母よう子との因縁的な出会いを越えてめい子と理子の本当の友情が育っていることは嬉しいことであった。

めい子は両親がメキシコに赴任することで一人日本に残って大学生活を続けることで母親との関係に距離を置いたのだった。

それは偶然の出来事だったのだが、めい子にとって母よう子がそれからの成長の過程に大きく口出しをしなくなったことが心を解放することに繋がったようだ。

心の解放というのはなかなか難しいことであった。

母よう子は、めい子の友人関係に特に口を出した。

友人の家庭環境を特に重要視して、選り好みさせるような母の干渉がたまらなく嫌になっていたのだ。

めい子が一人日本で大学に通うと言い出したとき、よう子は激怒した。

その時のことをめい子は昨日のことのように忘れたことはない。

だがめい子の父の助言によって、めい子の日本残留は許されたのだ。

それから2年、めい子は助言してくれた父平田の思いに報いようとメールで日々の生活を丁寧に知らせていた。
またよう子も赴任先で校長夫人として人々と触れ合ううちに、彼女の偏った思考が次第に変化するのをメールの内容からめい子は感じ取っていた。

そこにこうしてかつて母よう子にとって、インド赴任時代のよきライバルのような存在だった美沙との日本での出会いによって、めい子は新たな心の成長を見せていた。

翔一郎の誕生日の日を美沙、理子、そしてめい子はそれぞれの思いを込めて準備をし、楽しみに待ち望んだ。

つづく
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 「ここに使われる絵や文章の無断転載は固くお断りいたします。
    よろしくお願いします。」
小夏庵ものぞいてくださいね。


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by akageno-ann | 2009-03-28 23:00 | 小説 | Trackback | Comments(4)

Commented by panipopo at 2009-03-29 18:01 x
めい子さんも理子ちゃんもそれぞれ違う立場ですが、どちらも聡明で前向き、そしていろんなことをポジティブに捉えるという点では同じですね。
翔一郎さんのお誕生日、きっといいものになるんだろうな、って思います。
そして、やはり若い人の成長とか、存在って明るいエネルギーがあってきっと良い影響を翔一郎さんに与えてくれるんでしょうね。
Commented by ba-chama at 2009-03-29 21:45 x
私の父が 祖父母が 小さい頃よく彼の友人につぃて干渉したことを言ってました。
私にも心の中で 娘たちの友人関係に対して あれこれ思ったことはありますね。
Commented by akageno-ann at 2009-03-29 23:14
panipopoちゃん、お誕生日のバースデーケーキのことを書きながら今日はあなたの美味しいケーキを思ってます。
お菓子の美味しさは思いでも良いものにしますね。
二人はどんなお菓子にするのか愉しんでます。
Commented by akageno-ann at 2009-03-29 23:16
ba-chama 昔はやはりどうしてもそういう干渉はあったでしょうね
そして今でも子供を思うあまり言わねばならないこともあると思います。よう子の場合はめい子の考え方とちょっと違っていたことが問題でした。
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