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誕生日を喜ぶ

第5章 その9

その年の4月17日はちょうど土曜日だった。

理子は私学の高校だったので休みではなく、半日の授業を行って戻ってくる予定になっていた。

だがその朝、母の美沙に帰り道にめい子と落ち合って、買い物をして一緒に帰ってくる、と楽しげに話していた。

美味しいバースデーケーキを買ってくるという。

久しぶりに美沙も楽しみだった。子供の頃バースデーケーキはバタークリームのものが好きだった。

最近は生クリーム系が多くて味もこってりとしている。

バタークリームのケーキのスポンジの間にはオレンジのジャムがはさまれていてそれが翔一郎はそれが好きだった、と思い出した。

今日はそんなことを彼も思い出すかもしれない・・・ふと美沙はそんな期待をして心愉しんでいた。

翔一郎には朝食の時からその日誕生日パーティを行うことを話していた。

「何歳になるか覚えてる?」
そう美沙が問うと、翔一郎は

「55歳だっけ?」
と、答えた。

やはり翔一郎は倒れた日から時間が止まっているのかもしれなかった。

時間の経過に焦ることもなく、日々は坦々と過ぎていたのだ。

しかし彼は自分の誕生日のパーティを開いてもらうことには喜びを表した。

「めい子ちゃんも来てくれるのよ。」

と、美沙がいうと、

「デリーでも誕生日したよな。」

そう翔一郎は答えた。

美沙はまたデリーの日々をしっかりと思い出す翔一郎に気づいた。

デリーの思い出を語ることが 記憶の糸を繋いでいく可能性を感じられた。

つづく
誕生日を喜ぶ_c0155326_203257.jpg

 「ここに使われる絵や文章の無断転載は固くお断りいたします。
    よろしくお願いします。」
小夏庵ものぞいてくださいね。


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by akageno-ann | 2009-03-29 22:56 | 小説 | Trackback | Comments(8)

Commented by panipopo at 2009-03-30 19:14 x
翔一郎さんのお誕生日パーティーはきっとそれぞれが万感の思いでいっぱいのものになるんでしょうね。
それぞれが、翔一郎さんのことを思いやって、翔一郎さんも昔のデリーで祝ったことを思い出して。
それがリハビリにつながっていくことを心から望みます。
Commented by ka-chan-anone at 2009-03-30 22:51
パーティーというのは、
ウキウキとした気分にさせてくれますよね。
笑いが病気に勝つように、
嬉しい気持ちや楽しい気持ちは最高のリハビリですね☆
そんな楽しかったインド時代のパーティーを思い出しながら、
どんなパーティになるのでしょう(^^)?
Commented by ba-chama at 2009-03-31 13:25 x
私が翔一郎さんの立場に立ったら きっと 高知の海や山 川の光景を毎日思ってるかも、、、。

バースデーパーテイーはいくつになっても 嬉しいものですね。
最近自分がいくつになったか ちょっと考え込まないと わからなくなることもあります。(笑)
Commented by akageno-ann at 2009-03-31 22:09
panipopoちゃん、素敵なパーティにはやはり美味しいお料理と
美しくて美味しいバースデイケーキが大切な役割を果たすと思うのです。あなたのお菓子をみているといつも大きな優しさに包まれるように思うの。
Commented by akageno-ann at 2009-03-31 22:10
CHILちゃん、パーティを開くというのは考えるとちょっと大変なようなのだけどセッティングからお料理に至るまで一生懸命やるとそこには大きな新しいエネルギーが生まれると思うのです。
Commented by akageno-ann at 2009-03-31 22:11
ba-chama  そうです。私も翔一郎を高知へ連れて行こうと思っています。私も55歳だか・・56歳だか本当に混乱することがあります・・
Commented by cacaopon at 2009-04-03 02:43 x
♪ 自分のブログを書いたり 他人のブログをのぞいたり そんな生活をしていると ふと 自分が過去へ現在へ そして未来へ と自由に時間を超越しているような気分に陥る事があります。

現世での追われ追われの生活の中 ふと自分を見失いそうなとき
自分のことをブログに書いて見たり お友達のブログにコメントを入れたりしてるとき とても素直に自分としていられる事にも 気づく事も多いです。

ブログ小説を読んでる時間は ちょうど時間を止めてしまってる状態なのかな そして過去のコメントやコメントのお返事を読みながら 現在の私も一つコメントを書き残し 未来のannさんがコメントへのお返事を下さる。

不思議な不思議な 体験です。

翔一郎さんは 今 現在から過去を手繰っていってるのかしら
それとも 過去から 現在に向けて その薄れた真ん中の記憶を
スープを混ぜるようにじっくりと スプーンを動かしているのかしら・・・
脳の 働きって 謎がいっぱいです。
Commented by ann at 2009-04-03 11:13 x
cacaoponちゃん、本当に深い感想をありがとう。
なんだか私もここで時空を超えてお話しているように
思いました。遡って読み返す時間もいただけて感謝です。
小説は私にとって架空のことだけれど、でもこれまでの日々が
いろいろと役にたつことが嬉しく、それをまたこうして丁寧に
読んでいただけることで、意味をもつことが私の励みになってます
本当にありがとう!
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