古き映像
第5章 その10
4月の春らしい穏やかな夕刻に片山家は煌々と灯りをともし、いつもよりも華やかな玄関の生け花も訪れる人の心を励ましているようだった。
花の好きな翔一郎の母信子が知り合いの花屋に頼んで持ってきてもらった黄色を主体にした春の花たちがその日の片山家を一層賑やかせていた。
「黄色のチューリップ。素敵ですね」
訪れためい子もその美しさに目を輝かせていたのだ。
その日の客人は美沙の考えで現在の翔一郎を支えてくれる人々を招待していた。
平田めい子はこの翔一郎の病気をきっかけに見舞いに訪れてくれたインド デリー時代の友人の一人娘だった。
扶川夫妻は片山家の隣人で一番親しく、翔一郎を案じ、片山家の3人の女性たちを心から支えていた。
この日も扶川夫人はきれいなちらし寿司を重箱に美しく詰めて持参してくれていた。
いつもヘルパーとして来てくれている井上さんはこの日も仕事として参加してくれていた。
そしてこの日翔一郎が最初に担ぎ込まれた病院の脳外科医H氏がスペシャルゲストとして招待されていた。
H氏は中堅の40歳になったばかりの医師で、本来ならこのような個人的な付き合いはできないと考えるであろうが、美沙は翔一郎が今こうして誕生日を迎えるにあたって一番お世話になった人だと考えていた。
彼が当直でなかったら、おそらく翔一郎はここまでの回復は無理だったのではなかろうか・・
それは医学的にというより直感的に美沙には感じられたのだ。
H氏がこの日ここへ参加したのにも期間をかけた美沙との心の交流があった。
とりたてて親しくしたいというのではない、一人の人間が生き延びたということに大きな力を差し出してくれたことへの深い感謝を現したかった、という美沙の真意をH氏は受け取ったのだった。
そしてその夕刻からゆったりとした心のこもった片山翔一郎56歳の誕生日が行われていた。
そのアニバーサリーのメインに、美沙はデリー時代の古いビデオテープを用意していた。
つづく

牧場公園
ブログ「ひげじい~脳梗塞からの軌跡」のひげじいさんの作品です。
注 「ここに使われる絵や文章の無断転載は固くお断りいたします。
よろしくお願いします。」
「小夏庵」ものぞいてくださいね。

この小説の冒頭は・・こちらへ
by akageno-ann | 2009-03-31 22:03 | 小説 | Trackback | Comments(7)
56歳か 考えたら 私の父が他界した年です。
義妹が数年前に脳腫瘍の手術を受けました 腫瘍が 左にあったことから 言語を失う心配もあり オペをする医者の選択にはじかんを使ったようでした。
翔一郎さんを高知に連れて行かれる事 楽しみにしています。
義妹が数年前に脳腫瘍の手術を受けました 腫瘍が 左にあったことから 言語を失う心配もあり オペをする医者の選択にはじかんを使ったようでした。
翔一郎さんを高知に連れて行かれる事 楽しみにしています。
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親密な人たちに囲まれての誕生日会、翔一郎さんにはさぞかし良い会となったでしょうね。
こうやって、主治医の先生が来てくださるのは、珍しい+素晴らしいことではないでしょうか。
この展開が楽しみです^-^
こうやって、主治医の先生が来てくださるのは、珍しい+素晴らしいことではないでしょうか。
この展開が楽しみです^-^

ba-chama そうなのですね・・偶然ですね。お若かったのねお父様・・妹さんは手術成功されたのね・・よかったです。ちょっとの位置の違いが様々な問題を起こすということで、脳腫瘍や血管障害は本当に危険ですね。でも今の医学は随分進んできたようです。
高知・・新緑の高知になりそうです。
高知・・新緑の高知になりそうです。

ぱにぽぽちゃん、主治医の先生が個人にかえって来てくださるというのは本当に稀なことですね。でも患者の中に特に気がかりだったり心に残る場合があるようです。このようなスペシャルな日にはあなたの素晴らしいケーキがあると最高です。
翔一郎さんの誕生日、夫婦の記念日、
どんな1日になるのでしょう。
インドでのビデオテープが翔一郎さんの脳に
どんな刺激を与えてくれるのか・・・期待してしまいます。
こちらも記念日の話題です(^^)
どんな1日になるのでしょう。
インドでのビデオテープが翔一郎さんの脳に
どんな刺激を与えてくれるのか・・・期待してしまいます。
こちらも記念日の話題です(^^)
♪ 花には 眺めているだけで不思議と心を開放してくれる そんな力を秘めていますね。
リハビリに少し行き詰ったとき そんなときには原点に返って
まずは 生きていられて良かった そしてこれからも生きて行かなければ!!
って気合の入れなおし 必要なのかもしれないですね。
どんな インドでの思い出がテープに残されていたのか
私もとっても気になります。
リハビリに少し行き詰ったとき そんなときには原点に返って
まずは 生きていられて良かった そしてこれからも生きて行かなければ!!
って気合の入れなおし 必要なのかもしれないですね。
どんな インドでの思い出がテープに残されていたのか
私もとっても気になります。

cacaoponさん、花に託されたものってありますよね
あなたのお花にもものすごく優しさが加味されていて
感動します。
リハビリの途中に・・原点に返ることって多いですよ。
インドのテープのことも少し話しますね。
あなたのお花にもものすごく優しさが加味されていて
感動します。
リハビリの途中に・・原点に返ることって多いですよ。
インドのテープのことも少し話しますね。