バースデイ再び
第5章 その14
インドのビデオに映し出された幼い平田めい子は 大きなバースデーケーキの4本のローソクを吹き消していた。
あまりに真剣に吹き消そうとしたとき、可愛いめい子はいっぱいに唾まで飛ばしてしまって、その映像の中にいる人々の大きな楽しげな笑い声と共鳴するようにそのビデオを今見ているこちら側の人々、そうすっかり成長した平田めい子は大爆笑をしていた。
その笑いの渦の中に、病気発症後初めての大声で一緒に笑う翔一郎がいた。
その姿をみて、静かに翔一郎の母信子が安堵の涙を浮かべていた。
信子はもう80歳に手が届く。
本来ならすっかり悠々自適でいい人生の終末を迎えていいはずなのに、息子翔一郎の不慮の病は彼女を深い悲しみと絶望の境地まで陥れていたが、人間は生きている以上精一杯生き抜かなくてはならない、という彼女の持ち続けた信念によって立ち直らせていた。
だから彼女は自分が永遠の目を閉じる日まで、ここで役に立つ生き方をしていきたいと思っていたのだ。
その信念が彼女を気丈に台所に立たせて、まことに美味しい食事を作らせていた。
この日も美沙は美しいちらし寿司を作っただけで、新鮮なダイコンとニンジンとキュウリを薄い短冊に切って冷水にさらし手製の胡麻のドレッシングが添えられていたが、その日の大人気の一品になった。
インド時代の映像にもあるようにその日は大きな楕円のテーブルに所狭しと料理が並べられ、それをみな大皿にとりあって、和気藹々と話をしつつ食を楽しむのだった。
翔一郎にはめい子が皿にとりわけ、娘の理子が手伝って彼は美味しそうに食べた。
おそらく母親の味をこれほど堪能したのは初めてなのではないか・・と冗談まで交えていた・・・
しかしそれはあながち嘘ではなかった。
信子は定年まで教員として勤めていたので、料理は下手ではなかったが、簡単なものが多く、弁当などもあまり工夫がなく、高校生時代の翔一郎は少し寂しい思いをしたのだった。
だから彼は美沙とデリーに渡りこのようなバイキング形式のパーティをこよなく楽しんだ。
そして今、自分の母親が自分の誕生日の為に老齢であるにも拘わらずこのように人々に美味しいと賞賛されて味あわれていることに感動があった。
そうしてこの誕生日はデリー時代と重なりあって時間が美しく過ぎていった。
つづく
「小夏庵」ものぞいてくださいね。
この小説の冒頭は・・こちらへ
by akageno-ann | 2009-04-08 23:22 | 小説 | Trackback | Comments(8)
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Lotus_Wing at 2009-04-09 11:02
こんにちは。
先日はありがとうございました。
いろいろとお話ができて、本当に楽しかったです。
「赤毛のアン」は私が子供の頃に初めて感動した小説です。
akageno-annさんの小説、とても楽しみ♪
これからはちょこちょこ訪問させていただきたいので、
リンクさせていただきますね。
どうぞよろしくお願いいたします。
先日はありがとうございました。
いろいろとお話ができて、本当に楽しかったです。
「赤毛のアン」は私が子供の頃に初めて感動した小説です。
akageno-annさんの小説、とても楽しみ♪
これからはちょこちょこ訪問させていただきたいので、
リンクさせていただきますね。
どうぞよろしくお願いいたします。
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ぱにぽぽ
at 2009-04-10 20:04
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アン姉さん、こんばんは☆
めい子さんの可愛い様子に翔一郎さんも、すっかりと昔のことを思い出し、みんなと一緒に笑えるっていうことは素晴らしい回復だと思いました。
そして、信子さんの心尽くしのお料理はきっと翔一郎さんの心を温かいものでいっぱい満たしたんでしょうね。
老母でも、健康な人は80歳でもシャキシャキとしてますよね。だから信子さんのためにもよかったんではないかと思います。
まだ頼られる、何かを作ってあげられる、っていう気持ちは老いを負かしかくしゃくとした気持ちを信子さんにも再び思い起こさせることになるんでしょうね。
楽しいパーティーの様子が目に浮かぶようです☆
めい子さんの可愛い様子に翔一郎さんも、すっかりと昔のことを思い出し、みんなと一緒に笑えるっていうことは素晴らしい回復だと思いました。
そして、信子さんの心尽くしのお料理はきっと翔一郎さんの心を温かいものでいっぱい満たしたんでしょうね。
老母でも、健康な人は80歳でもシャキシャキとしてますよね。だから信子さんのためにもよかったんではないかと思います。
まだ頼られる、何かを作ってあげられる、っていう気持ちは老いを負かしかくしゃくとした気持ちを信子さんにも再び思い起こさせることになるんでしょうね。
楽しいパーティーの様子が目に浮かぶようです☆
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ann
at 2009-04-10 22:04
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ann
at 2009-04-10 22:06
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ann
at 2009-04-10 22:09
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ぱにぽぽちゃん、そうよね・・年齢は関係なく、その人の思いで頑張れそうだと思います。実際に私の友人のおばあさまが80を過ぎても素晴らしいお料理で持て成していただいたことがあって、ずっと良い思いでなの。ぱにぽぽちゃんもずっと素晴らしいお菓子を作り続けて行かれると想像します。
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at 2009-04-11 01:24
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
子を思う母親の愛情・・・について、
先日母から聞いた話です(母はテレビで見たそうです。)
外国の30代の女性で脳の研究しいていや方が
脳出血で倒れ、ほぼ赤ちゃんのように戻ってしまったそうです。
その女性の母親が、一から子育てをしなおしたそうです。
抱っこから初めて、文字を教え、
そして今女性は研究者として復帰されているそうです。
母親は数学者だったそうです。
母親の愛情はずっとずっと永遠に無償の愛なんでしょうね。
夫が倒れるのと、父親が倒れるのと、
やっぱりそれぞれの立場で全然違うのでしょうね(^^)
先日母から聞いた話です(母はテレビで見たそうです。)
外国の30代の女性で脳の研究しいていや方が
脳出血で倒れ、ほぼ赤ちゃんのように戻ってしまったそうです。
その女性の母親が、一から子育てをしなおしたそうです。
抱っこから初めて、文字を教え、
そして今女性は研究者として復帰されているそうです。
母親は数学者だったそうです。
母親の愛情はずっとずっと永遠に無償の愛なんでしょうね。
夫が倒れるのと、父親が倒れるのと、
やっぱりそれぞれの立場で全然違うのでしょうね(^^)