思いがけない住人
第6章 その1
翔一郎のバースデーパーティが行われて1週間が過ぎた。
その時の翔一郎の元気な様子に参会者たちは一応の安心をしたが、実際の病状はそれほど大きな快復はなかった。
美沙もこの脳の病が奇跡的な電気ショックを与えて一度に快復する様な病でないことはわかってはいても、様々な形で刺激を与えて少しでも脳のシナプスの発生を狙っていた。
脳内の情報交換の為に必要なシナプスは翔一郎の場合発症と同時に多くのそのものを失ったが、医学的にみてもまだ解明されていない可能性の中に、その新しいシナプスの誕生があると聞いていた。
だからまだまだこのように回復中の翔一郎の脳のメカニズムはもっとよくなっていくと思わないではいられなかったのだ。
医学的なことはわからなくても、一人の患者と日々向き合っていると何か彼の脳の中の消滅したと思われる部分でも刺激を継続的に与えることによって回復しようとするメカニズムが出て来るのかもしれない、と感ずるのだった。
そんな風に日々を諦めずに暮らしている美沙や理子の家族に 突然の申し出があった。
平田めい子が下宿させてくれないか・・と言ってきたのだ。
平田めい子はA大学の4回生に進級し、就職活動もたけなわな時期になっていた。
彼女は両親の気持ちを汲んだのか、中学校の教員を目指していた。
その教員試験は夏に予定されている。
そんな大事な時期に今までの暮らしを変更することに美沙はもちろん反対した。
「めい子ちゃん、私たちへの気遣いはそんなにしてはいけないわ。ここまでもどれほど援けていただいたことか。どうかこれからは貴方の為に時間を使ってくださいね。」
そう美沙は丁寧に諭した。
しかしめい子は気持ちが強く固まっていて、しかもメキシコ在住の両親にも了解を得ているという。
「これは私のお願いなのです。一人の暮らしは寂しく、味気なく、いつもこちらへお邪魔して理子ちゃんと一緒にいられると私はもっと頑張れます。」
傍らにいた理子は目を輝かせている。
美沙は心の中で『世間というのはそう簡単なものではない。』と呟いていた。
だが、そのときめい子を後押ししたのが信子だった。
信子はめい子とまだ1年足らずのふれあいでしかなかったが、理子と同様に彼女も可愛がっていた。
こんなことでこのような大事なことを決めていいのか?と美沙は深く悩んだが、
「では私は平田先生と国際電話でお話してみます。」
とのみ告げて、そのめい子の申し出を保留することにした。
つづく
「小夏庵」ものぞいてくださいね。
この小説の冒頭は・・こちらへ
by akageno-ann | 2009-04-11 12:04 | 小説 | Trackback | Comments(5)
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by
panipopo
at 2009-04-11 21:01
x
脳への障害はやはりうまくリハビリが行かないんですね。
1度損傷してしまったものは、きちんと再生されないなんて。。。
歯と同じなのか、って思ってしまいました。
やはりいつまでも若いと思って養生しないといけないな、って私への戒めのような感じがしました。
これは、あくまで私の主観です^-^;
めい子さんは心の温かい若い女性ですね。
これからのことどうなるのか。。。
翔一郎さんに奇跡が起こりますように!
応援も☆
1度損傷してしまったものは、きちんと再生されないなんて。。。
歯と同じなのか、って思ってしまいました。
やはりいつまでも若いと思って養生しないといけないな、って私への戒めのような感じがしました。
これは、あくまで私の主観です^-^;
めい子さんは心の温かい若い女性ですね。
これからのことどうなるのか。。。
翔一郎さんに奇跡が起こりますように!
応援も☆
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daikanyamamaria at 2009-04-12 22:52
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at 2009-04-13 05:53
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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akageno-ann at 2009-04-13 22:39
panipopoちゃん、そうなんですね、脳は本当に難しいメカニズムがあるようです。しかしまだまだ解明されていない部分もあって、素人はどうじても様々な可能性を求めてしまいます。
めい子の役割が出てきます。楽しみにしていただけると嬉しいです。
めい子の役割が出てきます。楽しみにしていただけると嬉しいです。
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by
akageno-ann at 2009-04-13 22:40
マリアさん、素敵なメッセージをありがとうございます。