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女の子らしい部屋に

第6章 その3

翔一郎は自宅に戻ってきた当初は、まるで以前とは人が変わったように、家のことに興味を示さず、ただぼんやりしていたが、誕生パーティを行ってから、次第に自分に今の状況が理解されてきたようだった。

ただ穏やかになってしまったかと思われた性格にも起伏が見え出し、たまに落ち込んだり、ごく稀に苛立っている様子が伺えた。

それが長年連れ添った夫と初めて向き合うような気持ちにさせられることに美沙は時折戸惑ったが、不思議なことに後悔や哀しさがなかった。

これまでの闘病生活を支えた者としての新しい自覚が美沙の中に育っていたのだった。

だから、平田めい子が下宿人のようにこの家に入りたいという申し出にも何か大きな変化がもたらされることに次第に期待感を募らせていた。

おそらくは娘の理子ともいろいろな問題が起こるのかも知れなかったが、いずれは理子もここを出て行くであろうことも想定し、新しい局面に積極的になる心が生じていた。

平田めい子の両親が話し合った結果を電話してきた。

久しぶりによう子も電話に出てきた。

「美沙さん、ご主人のご病気は大変そうですね。めい子も大変心配しています。あの子は貴方が好きなのですね。
だからあなたの少しでも手助けをしたいのだと、思います。
本当に手助けになるのか、今の私にはめい子のことがわからないのだけど、主人は美沙さんの下なら安心だといいますから、お願いします。
下宿代は払わせてくださいね。」

その言葉には優しさが感じられた。美沙は、

「最初はそんなことをしてはご両親が心配されると思ったのですが、デリー時代のめい子ちゃんのままの素直な優しい気持ちに心打たれました。
我が家は主人もその母もそして娘の理子が大変喜んでいるのです。
下宿代は本人と話し合って決めさせていただき、ご報告します。
こちらもお世話になるのですから、本当に実費だけいただくことにしたいです。

何か問題が出たときはいつでもおっしゃっていただけますよう、めい子さんにもご両親にも申し上げておきます。」

少々固さのある言葉だったが、よう子には美沙という人間が昔とかわらない良い人間であるとわかるような気がしていた。

美沙は勝気な面も持ち合わせて、決していい加減なことをしない人間であることも、よう子はよくわかっていた。
若い頃に二人の中に生じた亀裂もこうして長い年月を経て、娘の成長によって埋められていることに二人とも何となく気づいているのだった。

そして美沙はめい子の部屋をアンが喜んだような女の子の夢を見られるような部屋にしようと考えるのだった。
つづく
女の子らしい部屋に_c0155326_143756.jpg

雨上がりの庭の水場で

小夏庵ものぞいてくださいね。

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by akageno-ann | 2009-04-15 14:40 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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