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その人のための刺繍

第6章 その5

美沙は、かつて見た古い洋画レベッカの一場面にある全てのリネンにレベッカのイニシャルRが刺繍されていたのを幼い頃から憧れていた。

レベッカはアルフレッドヒチコック監督の渡米第1作であり、英国作家ダフネ・デュ・モーリアの原作を元に英国の古い格式の中でのロマンティックなミステリーを創作した。

名優ローレンスオリビエの冷徹な雰囲気の紳士と、その後妻となる美しい女性役のジョーン・フォンティーンの不安に怯える目が印象的な映画だった。

その頃から手芸の中では特に刺繍をよくした美沙は、結婚の為に夫婦のリネンにイニシャルを刺繍したが、一人娘理子が生まれたときは、ことさらに幸せな思いでRのイニシャルを幼子の衣装に美しい金糸を使って丁寧に刺繍した。

しかし、最近は手芸をする時間をもつことなど到底思い浮かべない日々であった。

夫のためにも少しはそういう手作業を入れていくほうが、と思っても、心はいつも夫の病のことで全て占領されていて、なかなか針と糸を持とうとは思わなかった。

だが、この家に懐かしい子供 平田めい子が同居することになって、めい子へのウエルカムの気持ちを久しぶりに彼女の部屋のインテリアとして刺繍をしようと思ったのだった。

めい子がまるで「赤毛のアン」のようにここにやってくるような気がしていたので、美沙はアンを自己流にデザインして刺繍し、小さな額入りにして壁に飾ることにした。

一針一針刺し進めていくと、楽しさと優しさが心を占めて、忘れていた美沙の中の創作する心が湧き上がってきていた。
つづく
その人のための刺繍_c0155326_2248334.jpg
久しぶりにクロスステッチをはじめています。

小夏庵ものぞいてくださいね。

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by akageno-ann | 2009-04-19 22:49 | 小説 | Trackback | Comments(10)

Commented by panipopo at 2009-04-20 16:47 x
美沙さんの心尽くしの刺繍の赤毛のアン。
どんなふうに仕上がるのかな、って楽しみです。
針を持つ余裕って本当にないですねぇ。。。
私も韓国のポジャギが好きで教室まで通っていたのに、今ではたんとご無沙汰で何にもしてません。
針を持つって、素晴らしいことですよね。
心が落ち着くのが好きです☆
Commented by akkunne at 2009-04-20 20:50
お今晩はー
何時も頑張ってますねーだけど凄いよねー
ポチ君ときてますのでよろひこですよ~(笑)
Commented by ann at 2009-04-21 07:25 x
ぱにぽぽちゃん、お菓子も手芸も相手があって作ってあげられるととても素晴らしいものになるような気がします。ポジャギも繊細で素晴らしい作品ですね。針を持つって心が休まりますね。ほんとうに・・
Commented by ann at 2009-04-21 07:25 x
akkunneさん、ありがとう
とっても励みになります。
Commented at 2009-04-21 09:25 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by fmutu at 2009-04-21 12:16
小学生の家庭科で刺繍を習いましたが、楽しかったです^v^
お話しながら、のんびりとするのがいいですね♪
雪の降る日に、暖炉の前なんかいいですよね~~~!
Commented at 2009-04-21 15:07
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by crystal_sky3 at 2009-04-21 21:22
こんばんは♪
一針一針に想いを込めて、そんな特別なおもてなしって素敵ですよね♡私も以前はクロスステッチをやっていたのですが、最近肩こりが酷くなりがちなので、ちょっとおやすみしています。
針仕事ってリラックスできて好きな時間です^^


Commented by akageno-ann at 2009-04-22 07:25
fmutuさんの絵を拝見していると、そのまま刺繍になるなって感じました。でも絵が描けるのは素晴らしい・・私は上手くかけないのですが、糸にするとなぜか絵にできる気がして・・今楽しいです。
Commented by akageno-ann at 2009-04-22 07:28
クリスタルさん、あなたのフエルトの作品素晴らしいです。
きっと様々な針と糸の作品があると想像します。また是非拝見させてください。肩凝り・・私もそれでしばらくやめてました・・目が急に悪くなったせいです・・でも眼鏡がなれて・・やっと再開です。
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