翔一郎のために
第6章 その6
やはり翔一郎もやっと自宅での療養になれてきた。
何が一番いいかと聞くと、食事だという。
療養中は一応きちんとしたダイニングがあって、そこに集まって食べていた。
味も美味しく、カロリーのコントロールもきちんとされていて、また翔一郎のように右手が使える者は自分のペースで食べることができたので、スタッフの手を煩わせることもなく、気楽ではあった。
だが、周りが皆病人だった。当たり前のことだし自分もその病人の一人なのだが、元気になるに連れ、わがままにもそのことが辛くなってきていた。
逆に言えば自身も入院当初はそういう印象を与えていたのだ。
そういうことはその場では明らかな思いに至ってはいなかったが、今こうして元気な娘の理子や妻と母との優しい気持ちに触れながら、自分の好物を作って共に食べるという嬉しさが過去を思い起こさせた。
過去を思い起こすということができるようになった。
正直なところ、発病後の事象は殆どまだ思い出せないでいた。
美沙が様々に話してくれるが、どうも発病前後の記憶がない。
脳自体の機能が働いていなかったのかもしれない。
人間の記憶は後から人から話されることで思い出したり形成されたりするもののようだ。
なんとなく、リハビリ病院での生活は自分の脳に記憶ができたようにも思えた。
だが、ここ自宅に戻ったことで、自分の日常の確実にしっかりしたものになってきたことを感じていた。
そして一番うれしいのは、自分の好きなものを食べやすく食卓に並べてくれる妻と母の気持ちだった。
その夜は、好物の天麩羅を小さく食べやすくして、膳に並べてくれていた。
つづく
昨日は春の素材の天麩羅を食べやすく小さくして揚げました。海老も三つにあらかじめ切っておくと揚げやすく、アボカド、茄子、玉ねぎも同じ大きさにしました。
こちらは昨日「いっちゃんの美味しい食卓」から頂戴したレシピで作った『キャベツと海老のパルメザン山葵マヨ胡麻合え』です。春キャベツと残った海老をボイルして・・大変美味しかったです。そして海老をボイルしたスープで美味しい味噌汁もできました。
「小夏庵」ものぞいてくださいね。
by akageno-ann | 2009-04-22 07:51 | 小説 | Trackback | Comments(4)
Commented
by
panipopo
at 2009-04-22 18:49
x
記憶って人から聞いてそれが自分の記憶として残ることもあるんですよね。
だから、自分が記憶していることと、実際は違っていることもあるらしいので、翔一郎さんも少しずつ自分なりの記憶を植え付けて行っている段階なんですね。
やはり家族の温かさは、細かいところまでに気がつくのでしょうね。
食事って大切なんですね☆
だから、自分が記憶していることと、実際は違っていることもあるらしいので、翔一郎さんも少しずつ自分なりの記憶を植え付けて行っている段階なんですね。
やはり家族の温かさは、細かいところまでに気がつくのでしょうね。
食事って大切なんですね☆
0
Commented
at 2009-04-22 22:57
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
at 2009-04-23 15:28
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
akageno-ann at 2009-04-24 09:41
ぱにぽぽちゃん、記憶っていうのは時として体験をそのまま覚えているのではないな・・と感じています。小さな子どもの記憶は大抵後付された記憶のようなのです。でもそこから様々な脳への刺激も与えられるようなのです。
食事・・そしておいしいお菓子・・そういうものすべて良い影響があると思います。
食事・・そしておいしいお菓子・・そういうものすべて良い影響があると思います。