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高知への旅

第6章 その10

平田めい子が片山一家に加わってから変化したのは、皆の口数が増えたことだった。

他人が一人入ることで、しかもその人が優しい心を持っている人であったために、良い気遣いを皆がし始めていたのだ。

めい子はとても明るく聡明で年齢は20代前半であるにも拘わらず、人の心を読んで行動できる女性だった。

美沙は長く教職についていたので自分を含めて20代の初任時代に気遣いの足りなさを感じることが多く、ましてや最近の若い教職員の様子を見ていると、マイペースを通す人も多いことを少々疎ましく思うことさえあったのだった。

だが、めい子は何故か美沙の感性に似たものを持っていた。

そういう感性同士が引き合って、この状況を作り出したのかもしれなかった。

会話に理子はもちろんのこと、療養中の翔一郎、そしてその母信子も自然に加わり談笑するようになったのだ。

ありがたいことだった。

それはめい子にそれぞれが自分のことを知ってもらおうとする意欲を見せたからに他ならない。

家庭生活においても、必要なのは個々の意欲だった。

翔一郎はもちろん、少しでも麻痺している左足と腕を快復させようとリハビリに励み、もつれる舌を気にしながらも積極的に会話に加わろうとしていた。

そのことは間違いなく脳の活性化に役立っていたのだ。

立派な医療療法士が来てくれることも大事だが、日々のやる気を喚起することの重要性を皆が感じられた。

そして齢80になる信子は明るくなった。

始めは少し翔一郎の病を他人に隠そうとしていたが、今はこの状況のままを受け入れることができたようだった。

そしてその思いが全ての親戚にも翔一郎を会わせようとする意識に影響した。

信子は優しい顔でこう提案するのだった。

「この初夏の良い季節にみんなで高知へ行きましょう。私ももうこの年では何度もはいけないと思うの。親族にも会っておきたいし、私が旅行代を出すから2泊3日くらいで良い旅をしましょう。もちろんめい子ちゃんも参加してちょうだい。」

あまりに唐突な発言ではあったが、美沙は明るい顔で姑信子の顔を見ていた。
つづく
高知への旅_c0155326_17354720.jpg

「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」の鰹のたたきのおいしい季節に土佐はなりました。

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小夏庵ものぞいてくださいね。

by akageno-ann | 2009-04-30 17:39 | 小説 | Trackback | Comments(7)

Commented by panipopo at 2009-04-30 21:39 x
めい子さんの存在は美沙さんの一家に素晴らしい効果をもたらしましたね。
みんなのためになくてはならない存在って感じですね。
特に翔一郎さんのために、最高のリハビリのひとつになってる感じで、素晴らしいです。
やはり脳に刺激があるのはいいですものね。

そして高知行き、なんだか楽しそうです!
Commented by crystal_sky3 at 2009-04-30 23:43
annさん、こんにちは♪
片山家とめい子さんのとの出会いはもしかして運命だったのかな・・・って思えます。なくてはならない存在。そしておそらくめい子さんにとっても
家族なのでしょうね^^
高知への旅はまた思い出に残るものになりそうですね☆
鰹のたたき、本当に美味しそうです!
Commented by ba-chama at 2009-05-01 03:59 x
あ~この写真 刺激が強い!!

これから高知ですか 楽しみです。

めいこちゃんがいい影響を家族に与えてるって ほんとに素晴らしい
なかなか そういかないことは 多いですよね

自分の経験で私自身もそうでしたし、留学生をおいていたときも そうやってうまく出来た自信はないです。
難しいことです。

今回のインフルエンザは 毎日のように報道されています
隣の郡でも 患者さんが出たようです。
正しい知識をつける事は 大切に思います
いい記事をありがとうございました。

今朝のニュースでは 豚を食べる人が少なくなり それで感染することなどないんだと いっていました。
いろんな人たちが 必要のない被害を受けたりしています。
Commented at 2009-05-02 07:52
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ann at 2009-05-02 15:04 x
ぱにぽぽちゃん、めい子を書いていると時々あなたの事を思い出すようになりました。ちょっと雰囲気が似ている・・と感じている私なんです。
きっと聡明で優しく、お菓子作りも上手にしてくれそうなそんな女性にめい子を考えています。
Commented by ann at 2009-05-02 15:05 x
クリスタルさん、嬉しいコメントに感謝しています。
私は運命を信じています。様々な出会いにはやはりそれまでの軌跡と理由があると感じます。そして別れにも必然があると思うのです。
高知も今は最高の季節です。
Commented by ann at 2009-05-02 15:08 x
ba-chama、リンクしてくださってありがとうございました。
留学生を預かられたんですね。私もやはりはじめての人を預かるのは難しいと考えます。心を打ち溶け合うまでに時間がかかりそうしているうちに別れが来ますね。でもめい子はやはり幼い時と両親を知っているというのが大きいかもしれません。

高知への旅が始まります。どうぞよろしく!
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