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人々を繋ぐ

終章 その4

翔一郎の母信子は 自分の命がそれほどに長くはないことを感じ始めていた。

食もほそくなったし、何より自分自身 この世にあることにそろそろ疲れを感じていた。

逆縁の不幸のように一人息子の介護生活に携わらなければならない自分の人生を時には呪いたい思いがあった。だが、嫁の美沙は無心によく働いてくれた。

彼女にとって本当に良い姑だったかどうか、それは自分ではわからない。

ただ美沙はとても自分の本当の娘のように信子に対して信頼し、心を打ち解けていてくれる。

そう感じられることがありがたいことだった。

互いがわがままを言っていられる状況でないことがそういう良い方向性を向いているのかもしれなかった。

美沙は自分の置かれた立場に対してとても素直に相対しているように思えた。

高知で住むこともおそらくは考えているだろう。

だが信子自身は今さらこの地に戻りたくはなかった。

ここを離れてしまった自分の生活と共に心も離れていたからだ。

自分の最後はやはり関東の今ある家で、そう切に願った。

自分の死後に翔一郎たちは異動を考えてはどうであろうか?

ふと其処まで考えて、自分の身勝手さにひとり不適な笑いをもった。

しかしここでもっと親族と心を繋いでおこう。

若い世代になって、若い人同士が繋がっているようにもみえ、心強いことだった。

自分がなくとも何とかなるだろうと、そう持ち前の気楽さも最後まで押し通したい・・

そんなことも頭を過ぎる老齢の信子がいた。
つづく
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by akageno-ann | 2009-05-22 10:35 | 小説 | Trackback | Comments(2)

Commented by panipopo at 2009-05-22 20:53 x
信子さんも、ご自分では長くはないと悟っているんでしょうか。
それにしても、やはり住めば都で、都会の我が家が終の棲家となるわけですね。
これからの短い人生、やはり自分の好きなように生活されるのがベストですものね。
だから、きっと土佐にはみんな戻らないんでしょうか、って思いました。

旅先なので、短コメで☆
Commented by ann at 2009-05-23 22:37 x
ぱにぽぽちゃん、
自分の死が悟ることができたらどんなにいいだろうと思いました。
でも優しさがそういう行動に繋がったら、多分良い人生の締めくくりができるのでは・・と思うんです。
信子にはそういう風に考えてもらえたら嬉しいと思いました。
ここまでの感想本当にありがとう・・
良い読者に恵まれて幸せです。
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