小説 その3
小説 ひまわりのような人
その3
焼き鳥屋にはなかなか女同士では入れない場所だが、都心にはちょっと小粋でお洒落なバー風な店があり、田部夕子は会社の同僚後輩たちと30代まではよく会社帰りに一緒に食事代わりに寄ったものだった。
しかし次第に立場的に難しくなり、またアルコールに弱くなっていく自分も感じて夕子は若い人たちとの飲食を愉しめなくなっていた。
そんなときにあったクラス会で、同期の昔の友人と出会って、夕子は救われていた。
特にバリバリと仕事をしている者よりも、屈託なく子供の話をする恵子の可愛らしい姿に惹かれたのは、全く正反対の生活への興味だけではなかった。
東京郊外の、その焼き鳥屋の主人は夕子と恵子と同じような年代で小説家志望だと言う面白い男で、上品な語り口調と仕込みのしっかりした創作的な焼き鳥が人気があった。そのせいかいつも若い女性たちが2、3人のグループで集っていた。値段も安く、ワインと焼酎を緑茶割りが恵子は気に入っていた。
「お二人でいらしていただくのは三回目ですね。本当に嬉しいです。ご贔屓にしてください。今日はご予約いただいたので、お二人に特性のものいろいろ用意してありますよ。」
そんな特別・・という気遣いが二人とも嬉しい年代になっているのをこの主人は心得ているようだった。
最初の突き出しはレバーペーストを野菜のスティックで食すもので、まるでフランス料理の前菜のようだと、夕子は驚いていた。
「タコはレバー好きなの?」と気安いニックネームで恵子は話しかけてきた。
「タコ・・か・・懐かしいけど・・ひどいあだ名よね・・」と夕子は笑いながら切り替えした。
「あだ名なんて言ってくれるところがいいですねえ・・でも貴方がタコはないでしょう・・」
と焼き鳥屋の主人はすかさず合の手を入れた。恵子は
「そうなの・・あのね、この人は感じの夕方の夕子っていうんだけど・・わかるでしょう・・
そしてね・・高校時代の彼女は黒縁の眼鏡ちゃんで秀才で皆一目置いてたんだけど、その裏腹な気持ちをこのあだ名に込めたわけよ・・親しみをこめてね・・」
と説明した。
夕子は照れて・・だまってワインを飲んでいた。
最初の焼き鳥は半生のささみに砂糖を隠し味にしてあるという本山葵が化粧するように塗られている。
女性に大人気のここの看板メニューの一つだ。
「レバーはもちろん大好きだけど、この半生の加減が素晴らしいわ」
と、夕子は続けた。
「女性の方たちは本当に誉め上手ですね。その表現についサービスしたくなるんです。」
そう言って出された半熟の鶉の卵を三個串刺しにして特性タレにつけて軽く焼いたものは一つ目を口にした瞬間に次を続けて食べてしまうのを惜しみたくなる旨味があるのだ。
「恵子には本当に良い場所を教えてもらったわ。ねえマスターここへは私一人で来ても大丈夫ね。」
そういう夕子に主人も
「もちろんですよ・・ふらっと寄ってください。お一人様はいつでも入れますよ。」と弾んで答える主人を恵子はまた冷やかした。
「マスターはやはり美人に弱いわね~~」
そうこうしていると15席ほどのそのカウンターはいっぱいになって、主人が他の客との蚊会話に入っていったのを汐に、夕子と恵子の二人の会話が始まった。
「夕子はもう結婚しないの?」
「ずいぶんはっきりと聞いてくれますね。恵子ちゃん!」
夕子は恵子の問いにおどけて返事した。
「だって貴方が何もなくここまで来たはずがないと思うのよ。」
「追求したい?そこのところ・・」
そう夕子が尋ねて、恵子は大きく頷いた。
その仕草があまりにピュアなので夕子は話し始めた。
つづく
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「小夏庵」ものぞいてくださいね
by akageno-ann | 2009-08-03 22:42 | 小説 | Trackback | Comments(5)
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at 2009-08-04 07:28
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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by
panipopo
at 2009-08-04 19:45
x
すらすらと読めちゃいます。
人の描写がとっても上手で、焼き鳥の串のおいしそうな感じも伝わって来ますよ~!
恵子さんと夕子さんは、人生の中盤で本当になんとなくしっくりと行く関係になって来たんですね。
2人がお互いのためにあることを感じます☆
人の描写がとっても上手で、焼き鳥の串のおいしそうな感じも伝わって来ますよ~!
恵子さんと夕子さんは、人生の中盤で本当になんとなくしっくりと行く関係になって来たんですね。
2人がお互いのためにあることを感じます☆
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akkunne at 2009-08-04 19:47
Commented
by
akageno-ann at 2009-08-05 00:09
鍵コメさんを含めて、とってもよく読んでくださって感謝!
すらすら読める・・ということ丁寧な描写・・食べ物も鮮明に
ここに来てくださる方たちの感想を生かさせてもらってます。
是非続きを楽しみにしてください。
すらすら読める・・ということ丁寧な描写・・食べ物も鮮明に
ここに来てくださる方たちの感想を生かさせてもらってます。
是非続きを楽しみにしてください。