小説 その6
ひまわりのような人
その6
堀田恵子が家に帰ったのは夜の10時半のことだった。
家の灯りはほの暗くて玄関の防犯灯も点け忘れている。
夫や子供たちは自分の帰宅時にこんなに暗かったら不安がるだろうに、人の為に電気をつけておこうという気遣いがほぼないのが寂しかった。
まあそんな風に家事全般についてあまり手伝わせなかったことは恵子自身の指導不足なのだが・・・
しかしその夜、夫も娘も帰宅していず、末っ子の貴と舅の二人だけだったのに驚いた。
キッチンの流しは夕食を食べた二人がそれぞれに片付けたようでさっぱりとして綺麗になっていた。
舅の居室の外から
「お父さん遅くなりました。今戻りました。」と言いつつ扉を開けて挨拶すると
テレビに見入っている舅が振り向くこともなく、
「ああ・・」と返事をした。
恵子は
「貴と食事されたのですか?」と聞くと
「貴は急いで食べて部屋に入ってしまったよ。他の者は誰も帰ってこん。」
予定通りといえばそうなのだが、昨日からこの年寄りが一人になることを他の皆に話しているのに、この有様はいったいどこに心が存在するのだろうか?と恵子は少し哀しくなった。
この家庭の唯一のまとまる場所だったはずの食卓が最近崩れ始めている。
子供たちの成長と共に食事時間がまちまちになってきたのを許したことがいけなかった、と恵子は省みる。
そして舅が全くアルコールを受け付けない性格であることも実の親子である夫との距離ができてしまった要因になっている。
恵子自身はずっと子供や舅に合わせてアルコールを口にしなかったが、外食時にちょっと嗜む程度のワインなど美味しく感じるようになって、最近は帰宅の遅い夫の晩酌に少し付き合うようになっていた。
そして更年期の症状のあらわれなのだろうか・・
夕刻食事つくりの時間になるとやる気が失せたり、眩暈がしたりするようになって、ほんの少しのアルコールを口にすると心が軽くなることを覚え、家族にも話してワインやビールを少し飲むことが増えてきた。
おそらく最初は舅は理解できないことだったと思うが、恵子自身が明るく家事に携われるのをみると次第に許容しているのだった。
しかし恵子にはだんだんとアルコールに強くなっている自分を感じていた。
その頃夕子や友人たちと飲む機会ができ、益々と解放される自分の心を感じているのだった。
末っ子の貴の部屋をノックすると低い声で「はい!」と返事が返ってきた。
「どう、おじいちゃんと食べたの?悪かったわね・・」
「いいよ、おじいちゃんが片付けてくれたよ。」
「そうなの・・勉強はかどってる?」
「うん、宿題難しくてきついけど、あとでお姉ちゃんに聞くよ。英語だから」
そんな貴との何気ない会話が今夜は恵子の心を救ってくれていた。
「夜食もってくるね・・ミスドのドーナツだけど・・」
「うん!」
男の子はこの返事で結構喜んでいるのだということがわかる。
まだ我が家も最後の砦は壊れていない、とそのとき安堵した。
やっと娘の沙耶が帰宅したようだった。
つづく

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by akageno-ann | 2009-08-07 18:32 | 小説 | Trackback | Comments(5)
いつもアップされるのを心待ちにしています(笑)。
今日も飛びつくように読ませていただきました。
もう金曜日ですね。
どうぞ良い週末をお過ごしくださいね!!
今日も飛びつくように読ませていただきました。
もう金曜日ですね。
どうぞ良い週末をお過ごしくださいね!!
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恵子さんが魚座かも・・・というのは
私の勝手なイメージです(^^)
魚座って、なんとなく
海のようなふところを持ち、
優しく人を受け入れてくれるような。
でも少し寂しがり屋で、甘えん坊なとこもあったり。
一生懸命で、他人を気遣えるけど
一人になると周りの人は私を分かってくれない・・・と
思ってみたり・・・
・・・・なんて、本当に勝手な私のイメージなんですよ!!
もし魚座の方が読んでいて、
違うよ~~と思われてたらごめんなさいっっ
私の勝手なイメージです(^^)
魚座って、なんとなく
海のようなふところを持ち、
優しく人を受け入れてくれるような。
でも少し寂しがり屋で、甘えん坊なとこもあったり。
一生懸命で、他人を気遣えるけど
一人になると周りの人は私を分かってくれない・・・と
思ってみたり・・・
・・・・なんて、本当に勝手な私のイメージなんですよ!!
もし魚座の方が読んでいて、
違うよ~~と思われてたらごめんなさいっっ

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