小説 あの8
ひまわりのような人
その8
沙耶は以来父親には秘密でときどき中村宏に会うようになっていた。
親に秘密にするということが恋愛感情を高めているようにも見えたが、中村が父親の部下であるということは、母親の恵子にとっては少し安心材料になった。
女同士というか、母親の勘というか、恵子は中村と娘沙耶の交際はすぐに察知できた。
息子の彼女のことも心配でないこともないが、不思議と娘のことの方が気になるのは同性だからなのか。
恵子が焼き鳥屋で友人夕子と飲んだ夜も沙耶は中村宏と食事して帰宅していた。
母親が遅いことを知っていたので、態度も自然リラックスしていた。
少しアルコールが入っているようだった。
「飲んだの?中村さんと・・」
悪びれることもなく沙耶は
「うん、お食事ご馳走になったわ・・」
「そろそろお父さんに話しておかないと、わかったらきっととても嫌な思いするわよ。」
沙耶はそういわれてちょっとはっとしたようだった。
「お母さんは中村さんのこと許してくれてるよね?」
そう言われて、恵子は真顔になって答えた。
「沙耶ちゃん、貴方は結婚のことを考えているの?中村さん貴方より一回り以上年上よね!単純な恋人としてのお付き合いなのかしら?」
「結婚のことなんか、まだ何も言われてないもの。大学をきちんと卒業しなさい・・って言ってくれてるし・・」
「大学を卒業したら本格的に付き合おう・・ってことなのかしら?」
「わからないけど、でも中村さんは私のこととても大事にしてくださるわ。」
心をすっかり一人の年上の男に奪われている様子が恵子には伝わってきた。
自分も初めての恋は年上の人だった、と思い出していた。
恵子の場合父親が高校時代に亡くなっていたので、余計に父親の印象を求めていたように今振り返る。
しかしあの頃、そのような年齢差のある交際は世間であまり認められないような風潮にあった。
あのとき結婚できなかった相手の様子は実家の近所の人だったから、今も消息はわかる。
いつかばったり再会したこともあった。
気まずさも思い出すが、懐かしさのほうが先にたった。
「恵子ちゃん元気そうだ・・」
とその人は眩しそうな目をして言ってくれた。
還暦を越えたような年だったと思うが、若々しかった・・
「お母さん、応援してよね・・・」
沙耶が懇願するように言ってきて・・はっとした。
「中村さんのこともう少しいろいろ教えてよ・・」
そう言ってその場を凌いでしまった。
つづく

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by akageno-ann | 2009-08-10 12:52 | 小説 | Trackback | Comments(2)

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
重なったということに感動してます!
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