小説 その9
ひまわりのような人

その9
田部夕子はあの日以来、自分のこれからの身の振り方について気になっていた。
これまでは一人での生活に優雅さを感じても孤独さに浸ることはなかったのに・・
堀田恵子と飲んで話したその日から、恵子のいう高校時代の同級生K君の存在を意識していた。
『50才近くになって昔の恋を意識するとは全く、私も何を血迷っているのかしら?』
実際夕子自身驚いている。しかし実はその前にあった同期会でKの存在は少々気になることがあった。
その会は貸切のアイリッシュバーで二次会が行われたが、カウンター席に座っていた夕子にKが一度だけカメラを向けたことがあった。
夕子が
「ひゃ~~写真はやめて~~~独り身はあまり慣れてないのよ・・」
と、おどけて言ったときのKの反応があまりに目が輝いたことだった。
「まさか~~ほんとかよ?」
と、だけ返してきて、そのまま他の人の方へ行ってしまったが・・
その時はさほど心に留めなかった出来事が、こんなにあとになって思い出されるとはどういうことか・・今さら高校時代の友人との出会いが再燃することがあるだろうか・・
そう思っただけで心がくすぐったくなった・・
夕子には兄弟があったがそれぞれに両親の家から離れて暮らしていた。
兄も弟も夕子が一人身なのをここへきて有り難いことと感じているようだった。
それぞれの家族構成に新たに両親をいれることはなかなか不都合があると感じていたので、夕子が両親と暮らしてくれれば好都合だった。
しかしなかなかそう簡単にはことは進まないのが世の中だ。
まだこの時点で夕子が結婚すると決まったわけではなかったが、夕子の人生はちょっと方向を変えつつあることを神だけはご存知だったようだ。
堀田恵子は自分の娘の恋愛については頭が痛かったが、友人夕子のこれからの恋については小悪魔的な気持ちで様子をみようとしていた。
そのことが、おそらくこれからの娘沙耶の将来にも役立つことがあるようにも思い、少し打算的な己を感じて背筋が寒くなった。
自分にはもうない恋の体験をもしかして他人の体験で楽しもうとしているのではないか?と考えるとその邪悪な気持ちを抑えなくてはならないのに・・どこかで愉快さを感じているということを知ってしまっていたのだ。
つづく
写真は友人の三歳のお子さんが私の為に描いてくださった「ひまわり」

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by akageno-ann | 2009-08-12 20:38 | 小説 | Trackback | Comments(4)

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了解!いろいろありがとうございます!
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。

鍵さん・・いつもありがとうございます。