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小説 その14

ひまわりのような人

その 14

その店は東京郊外の多摩西部という位置に既に400年以上の歴史を携えて存在していた。

広大な敷地は高低を上手く利用して散策させるように店の一部屋一部屋に繋がっていた。

元はこの辺りの大きな庄屋の家で、藁葺き屋根に黒光りする床柱をそのまま生かして、炭火焼の料理屋に設えてからも40年は過ぎている。

恵子もこの店と出会ってから既に25年を有に越えている。
三十年前に初めてこの店を訪れたとき、それは今でも胸が締め付けられるような深い思い出があった。

恵子は大学入学直後の春、この店に一人の年上の男の車でこの店を訪れた。

駐車場前の萱門の両脇には松明が焚かれ、足元にも小さな篝火が道案内のように入り口玄関まで灯されていたのだ。

ふとこれからおこるこの会食は一つの愛情が育つ兆しなのか・・・ほのかな妖しさを秘しているようだった。

幽玄というのはこういう雰囲気をいうのかもしれない、若い恵子は胸をうたれる様な思いでその場に佇んだことがあった。


その場所に久し振りに友人二人を連れて訪れている。

秋の気配の涼やかな宵だった。

二人をB駅でピックアップして、高速道路をほんの少し飛ばして日の出インターという出口を降りた。

この圏央道という高速のインターができてから、恵子の行動範囲はまた少し広がっていた。

都心に住む友人たちを鄙びた場所に誘って喜ばせる、自分はすっかり水先案内人になって優越感に浸る・・・そんなささやかな楽しみが恵子を日常の憂さから解放していたのだ。

そして今夜はそこに、同期生の田部夕子と黒田保夫を誘っていた。

松明は昔と変わらずに夕暮れの萱門の両脇にかかげられて、夕子を感動させていた。

「まああ・・なんて素敵な場所なの・・・恵子は良いところ知ってるのね~~」

保夫は黙ってそれを見上げ、静かな笑みを湛えている。

「たまには田舎もいいでしょう・・都心のお洒落な場所を知り尽くしている貴方たちを喜ばせるために考えていたんだけど、意外にここは私のお気に入りの場所だったのよ・・」

足元の篝火に導かれて、三人はゆっくり入り口に向かった。

どの部屋にもほんのりと温かい灯りが灯されていて、夕餉の準備が整えられているようだった。

小説 その14_c0155326_0204781.jpgつづく

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小夏庵ものぞいてくださいね

by akageno-ann | 2009-08-27 15:15 | 小説 | Trackback | Comments(2)

Commented by flyrobin at 2009-08-27 18:38
annさん、お帰りなさい!
こんなお店、もしあったら行ってみたいです。
描写がとってもリアルなので、つい、annさんは
どこかのお店をモデルになさっているのかな!?
などと思いながら読み進めてしまいました。
Commented by akageno-ann at 2009-08-27 23:01
あるんですよ・・モデルが三つばかり・・
今回は融合させてます・・
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