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小説 その15

ひまわりのような人
小説 その15_c0155326_17325010.jpg

                                                      タイトル画 M.N
その15

久しぶりに訪れた店に友人の夕子と黒田を案内しながら、恵子は遠い記憶を呼び起こしていた。

そんなことのために、ここに二人の恋を後押ししようと招いたのではないはずだが、恵子は自分自身の中の退屈な部分を埋めようとしていることに気づいてしまった・・

『夕子の幸せをこころから祈っているのだから・・これくらいの妄想は許してもらおう』

そんな風に思いながら通された部屋に座った。

「なんだかキョロキョロしてしまうわ・・探検できるのかな?」

夕子はこうした新しい雰囲気の店に来るとつい気持ちが弾んでしまう。

黒一点の黒田は・・静かに夕子を見ていた。

そんな仕草が恵子のかつての憧れていた男のことを思いださせた。

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あの頃、自分はなんという現実しか見られない情けない子供だった・・と

その時突然に後悔がよぎった。

部屋に通されるまでにもった期待感とは裏腹に身持ちの固さを相手に知らせることに終始してしまった恵子の若かった失敗の時間がこの空間にはあった。

結婚というものを神聖なものと考えていた古い考え方・・古いとはそのときも実はわかっていたのだが、それが良い女の条件だと勝手に思っていたこと・・・

しかし今は・・とても馬鹿らしく感じてしまっていた。

夕子は自分と同じく中年の女なのに、今こんなに若々しい・・

結婚して子供を持って育てて、家庭を作ることに優越感を感じていた自分に・・一瞬で嫌気がさしたのも偽らざる気持ちだった。

今夜はとにかく裏方に廻ろう・・

そうこうしているうちに部屋には炭火が赤々とした火を焚かれて運ばれ、大き目の笊に形良く盛られた飛騨牛や季節の野菜、山女の串刺しまでが賑やかに食卓を彩った。

最初の突き出しは皆美しい竹細工の器に盛られている・・

話をするより、皆この場所の雰囲気と料理を堪能してしまう・・

これもまた一興なのだ・・

by akageno-ann | 2009-08-30 00:04 | 小説 | Trackback | Comments(4)

Commented by flyrobin at 2009-08-30 00:48
シチュエーションの描写がとってもお上手ですね。
読み進めながら、その場の様子がリアルに迫ってきます。

今日も飛びつくように読ませていただきました。
annさん、ありがとうございます。
Commented by ka-chan-anone at 2009-08-30 22:26
飛騨牛や季節の野菜、山女の串刺し!!
このお店に自分が行ってみたいと思いながら読んでいます。
うちの両親がすきそうなお店です(^^)

恵子さんの思い出、
それから夕子さんたちの未来、
次も楽しみにしています(^-^)
Commented by akageno-ann at 2009-08-31 17:36
ロビンさん、いつも本当に読んでくださって感激してます。
美味しいものを一緒に楽しんでいただけるようなそんな作品にも
したいと思っています。
Commented by akageno-ann at 2009-08-31 17:37
CHILちゃん、主人がタイトルの絵を描いてくれました・・
この場所・・教えますね・・是非ご両親といらしてほしい
私も仲間に入れてほしい・・
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