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小説 その17

ひまわりのような人
小説 その17_c0155326_17325010.jpg

                                                      タイトル画 M.N

その17

その夜は思いがけない方向に展開し始めていた。

恵子は若かりし頃の己の未熟な心をここで嫌というほど味わわされていた。

50近くになると、ふと自分の生き方に充分さを感じて妙な自信が出てきたりすることもあった。

ましてや今夜は友人の恋路をお節介しようと・・・すっかり段取り良く進んでいたのに・・

最後に何をうろたえることがあるのだ・・と

恵子は一瞬にして気を取り直した。

「よくわかりましたね。私のこと・・変わってない?」

そんな風に切り替えしていた。

主人はにこやかに

「ええ、変わっていない・・びっくりしました・・先ほどお会計にいらして従業員と初めて言葉を交わしてらして、わかったのですが・・失礼をお許しください・・このようにご挨拶に出てきてしまって。」

「恵子さんは魅力的な女性だったんですね・・」

初めてそこにいた黒田が言葉を挟んだ。

その唐突でいて温かい言葉にその場の空気が澄んだようだった。

「可愛い人でしたねえ・・いえ過去形ではないですよ・・今もそのままだ・・」

夕子は笑いながら

「恵子良いわね~~なんかすごくもててる・・」

柔らかい嫉妬の言葉は皆の心を和らげた。

「奥様はお店に出ていらっしゃるのですか?」
恵子はその頃にはとても落ち着いていた。

「はい、この部屋までの通り道にある出店で店番をしてますよ。良かったら会っていってやってください。」

その主人の言葉を最後にその座が閉じていくのだった。

短いがなんと内容の濃い会食だったのだろう・・

店の主人にこの店の良さを充分に伝えただろうか・・

その主人とまたこうして話すことができるのだろうか・・・

玄関で履物を履いてゆっくりと出口に向かう左側に先ほどの主人の言葉にあった出店があり、竹細工や地元の山野草を利用した食材など土産として売られていた。

中年だが綺麗で優しげな笑顔の婦人が店番をしていた。

この家の女将だった。

恵子がその店に入るのか、と思っていた夕子と黒田だったが、恵子はその婦人に静かに会釈をして店の中には入らなかった。

そのことが夕子には恵子の心のときめきがまだ収まっていないことを感じさせていた。
小説 その17_c0155326_0204781.jpgつづく(小説はすべてフィクションです)

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by akageno-ann | 2009-09-04 14:56 | 小説 | Trackback | Comments(6)

Commented by flyrobin at 2009-09-04 19:29
ときめきの再会と現実と一瞬の夢。。。
この小説を何人の方が読んでいるのだろうと思ってしまいます。
多くの方に読んでいただきたいです。
一冊ポンと目の前に置かれたら、夢中で読み耽ってしまいそう(笑)。
Commented by geko at 2009-09-05 18:43 x
なんだか、ドキドキしてきました。
今後の展開に目が離せません。
私もちょうど”恵子や夕子”と同年代。
気持ちが手に取るようにわかります。
annさんってすごいなぁ・・・
それぞれの女心をこんなにズバリと描けるなんて!
Commented by higeji-musume at 2009-09-05 21:33
こんな昔の人との再会、そしてお互いの今。
ちょっとトキメキたくなりますね(^^)
でも今は子どもが1番の時期なので、
子育てが一段落する恵子さんの年ぐらいの、
この再会が余計にときめかせているのかもしれないですね☆

こちらも3ヶ月以上ぶりに更新しました。
内容はちょっと暗めですが・・・(^^;)
Commented at 2009-09-06 14:54 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by panipopo at 2009-09-07 17:13 x
今日からまた少しずつ読ませてもらいますね。

ステキな再会があって、私までドキドキ!
夕子さんも恵子さんの女心が伝わって来て、その描写の細やかなところが思い当たることもあって、グングン引きこまれて読んでしまいました。

これから先、どうなるのかしら?楽しみにしています。
Commented by ann at 2009-09-08 10:52 x
感想をありがとうございます。
お返事の代わりに先をよんでいただきたく・・
よろしくお願いします。
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