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小説その18

ひまわりのような人
小説その18_c0155326_17325010.jpg

                                                      タイトル画 M.N
その18

堀田恵子が企てた田部夕子と黒田を引き合わせようとする会食は、思わぬ方向に進んでしまった。

いつもは、どんな時も恵子の招待客からの賛辞と礼状で終わるのに、今回の会食後恵子は様々に心が乱れ平常心を失ってしまっていた。

あの夜、恵子はかつての恋人と思っていた男と思いがけない再会をし、片思いだったのだ、と一人合点していたことが自分の心の未熟さから相手の気持ちを推し量れないでいたのだと言う事実を突きつけられて、その時点よりも尚後になって深く傷ついてしまっていた。

もしもあの若かった日に、あの料亭へ招かれていたことをわかっていたら、今の自分とは全く違う自分がこの世に存在したのだ、と思うと それは哀しさにも似た無念さが押し寄せた。

時効と言えば言えるような月日の流れに、おそらくあの店の主人はただの懐かしさで客として現れた恵子に声をかけたのであろうが・・・

そう思ってみてもなお、恵子はゆれる心は落ち着かなかった。

その店を出てからJRの駅に夕子たちを送って、夜の高速道路を使って帰宅したのは11時過ぎだった。

いつもは賑やかに家に入って 舅をはじめそれぞれに声をかける恵子は珍しく静かに入りこそこそと行動して夫のいる部屋に行った。

「どうだった?」
夫はあまり気のない声でそう聞いた。

「ええ、まあまあだったわ・・」

恵子もまた素っ気無くそれだけ答えた。

「飲むか?」

とナイトキャップでブランデーを飲んでいた夫は恵子に聞いた。

「疲れたからお風呂に入って休むわ・・すみません・・」

と言ってその部屋を出て行った。

夫にしてみればふといつもと違う妻の様子は気づいたが、思ったほどの好感触が得られない会食だったのだ、と感したに過ぎなかった。

いつも会が盛り上がり楽しく終わることができると、夜中であろうと ひとしきり賑やかに報告する恵子だったが、あきらかにこの日は不作だったのでは・・と思わせる妻の様子に 夫もそれ以上関心を持たなかった。

恵子もただ疲労感があって、入浴したのだが、ふと鏡に映る中年太りが感じられる己の体を眺めてしまっていた。

小説その18_c0155326_0204781.jpgつづく(小説はすべてフィクションです)

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小夏庵ものぞいてくださいね

by akageno-ann | 2009-09-08 11:18 | 小説 | Trackback | Comments(4)

Commented by panipopo at 2009-09-08 17:29 x
annさん、こんにちは。
恵子さんの心の昂りや、あの時は。。。っていう気持ち、痛いほどわかるような気がしました。
そういうときには、日常生活に戻りたくないですよね、なかなか。。。笑
だからだんなさんにも、すげなく受け答えしてしまうのもわかります。
そういう胸のときめきを最後の文章が引き締めていて、恵子さんと一緒に夢の世界に行った私も、現実に戻った気がしました!
Commented at 2009-09-09 00:24 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by CHIL at 2009-09-10 21:23 x
昔、恋心を抱いた人に再会するのは、
トキメキだけだと思っていたのですが・・・
実際にそんなことが起こったらトキメキだけではなかったり
するのでしょうね。
若い頃の自分を知る人だから、
余計に今の自分の現実が浮き彫りになったり・・・。
心の動きの描写を読んでいると、
annさんってすごい!って思います(^-^)
Commented by akageno-ann at 2009-09-11 07:34
感想をいただくとほんと嬉しいですね。
そうですね心の感覚は年齢と共に変わるようですし・・
その辺を書いていきたいです。
現実って厳しいですよね・・
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