小説 その20
ひまわりのような人

タイトル画 M.N
その20
堀田家のポストには毎日無数のダイレクトメールが入れられるが、恵子は舅のものもあるので郵便物は一つ一つ丁寧により分ける。
舅は70を過ぎたあたりから通信販売を楽しんで利用するようになっていた。
時に買ってすぐに気に入らず、恵子たち夫婦や孫たちにその品物が廻ってきたりして閉口することもあったが、舅をがっかりさせないように皆それぞれに礼を言って受け取っていた。
衣類のこともあれば、膝のサポーターだったり、健康器具だったりした。
子供たちは結構面白がっていろいろなものを買うおじいちゃんを喜ばせていた。
そんなわけでこの家はダイレクトメールも一通り目を通して廃棄するのだ。
ある日のダイレクトメールは夥しい数のものだった。
その中に堀田恵子宛の毛筆の丁寧な少々大きめな封書が紛れていた。
先日の料亭からだった。
逸る思いを隠すこともせず、恵子はその封を破って中身を出した。
二枚の喫茶券が先ず出てきた。
あの店の併設の喫茶店のものだった。
そしてやはり毛筆の達筆な文字で店主からの私信が一枚入っていた。
『前略御免ください。
いつも当店をご贔屓いただきまして誠にありがとうございます。』
ここまで読んで、恵子はそのあまりに杓子定規な挨拶に吹き出してしまった。
・・・彼らしい・・と思ったのだ。
『先日はわざわざお越しいただいて、お友達をご紹介いただいたお席に、図々しくもお邪魔をいたしまして、大変失礼いたしました。』
・・まあ一応はわかっていたのだな・・と恵子は溜飲が下がる思いがした。
『あまりの懐かしさとあなたの変わりない魅力に、どうしてもお声かけしたく、あのように正々堂々とお部屋に伺ってしまいました。申し訳ありません。』
それまでなんとなく怒っていた恵子の心はここで大きく崩れた。
『お詫びにお茶のサービス券を同封させていただきますので、また是非お越しいただけますようお願いいたします。』
とあっさりしたものだったが、恵子にはその見覚えのある文字の力強さに心魅かれた。
食事をご馳走したいというのでもない、お茶をご馳走するからまた当店をよろしく・・という自分の店の繁盛をしっかりと意識したものだったのだ。
恵子はその封書に好感を持った。
そしてその手紙が着くと同時に田部夕子が電話をしてきた。
「恵子、感謝するわ。黒田君がクラシックのコンサートに私を誘ってくれたの。」
と、いつにない弾んだ声の電話が入った。
受話器を置いた恵子は
「全てことは上手く運んでいる・・・」
と呟いた。
だが、その夜、夫紘一郎が帰宅すると。彼から思いがけない言葉が発せられたのだった。


いつも応援クリックに感謝しています。
「小夏庵」ものぞいてくださいね
右の絵は間もなく4歳のりょん君の作品です。
by akageno-ann | 2009-09-13 23:19 | 小説 | Trackback | Comments(3)
うう・・・早く続きが読みたい〜〜〜っ!!
0
私も続いて。。。早く続きをアップして下さ~い!(笑)。

ありがとうございます!