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小説 その23

ひまわりのような人
小説 その23_c0155326_17325010.jpg

                                                      タイトル画 M.N
その23

 時というのはいつも自然に流れている。

人の力では押し留めることなど決してできないものであるのはわかってはいても、なんとか時が止まってほしいと願うことがある。

いや沙耶の場合は、時がほんの少し前に戻ってほしいと、張り裂けそうな胸中で考えていたのだった。

沙耶の恋人の中村は沙耶の父親堀田紘一郎の部下としてエレベーター会社の営業マンを5年勤めていた。

誠実な人柄の中にユーモラスな会話力を持っていたので、営業部の中では指折りの業績を上げていた。

その勢いが災いした・・と他人は言うかもしれないが、今回大手の取り引き相手の担当にくってかかるような態度を見せてしまった中村宏だった。

直属の上司の紘一郎は社長命令で 相手先担当及びその上司を接待することと、中村の左遷を条件に詫びを入れることとなったことに、やむを得ない措置であったとはいえ、煮え湯を飲まされたような痛い思いが胸に残った。

中村は地方転勤となり、間もなく異動が発表されることになっていた。

沙耶はその事実を父紘一郎から聞かされた。

と、いうのも、その事件以来中村からの連絡はなかった。

沙耶はメールこそ毎晩のように始めのうちは送っていたが、何の返信もしてこない中村の心中を推し量ることができず、諦めなければならない事実を覚悟せざるを得なかったのだ。

そうして約一ヶ月があっという間に経っていた。

それでもきっと中村は沙耶について紘一郎に何らかの働きかけをしてくれるに違いない、とかすかに期待を抱ていた。

全く受身に待っているような沙耶の姿を母親として恵子は歯がゆかった。

そしてその歯がゆさはおそらく 恵子自身の若き頃の苦い思い出と重なっていた。

自分からは何も働きかけない・・その程度の愛情・・

我が子沙耶はそれで後悔はないのだろうか?

幾分ふさいだようなムードを出してはいるが、この子はまだ現実がつかめていない。

中村が、父親が・・そしてこの母親が何とかしてくれるのではないか・・と思っているようだった。

何とかしてやらなければならない・・・恵子は心が逸った。

小説 その23_c0155326_0204781.jpgつづく(小説はすべてフィクションです)

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小夏庵ものぞいてくださいね
右の絵は間もなく4歳のりょん君の作品です。

by akageno-ann | 2009-09-18 15:23 | 小説 | Trackback | Comments(6)

Commented at 2009-09-18 22:18 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ann at 2009-09-19 08:20 x
鍵コメさん恐縮!ありがとうございます。
Commented by crystal_sky3 at 2009-09-19 20:15
こんばんは♪
恵子さんは若かりし頃、自分の成就できなかった恋愛を重ね合わせて
いるんですね。
沙耶さんがもう少し大人であれば・・・またこの状況を違う形で受け止めて
いたかもしれませんよね。
恵子さんがどんな行動をとるのか、楽しみです!
Commented by panipopo at 2009-09-20 20:24 x
日本の母親は成人した娘さんのためにここまでするんですね~!
って、私も日本人だけれど、気持ちがアメリカ人だから^-^;
日本人の子供さんは、大人になってもまだ親の庇護が必要なんですね。
ちょっとビックリです。いやいや、これが日本では当たり前なんでしょうね。
欧米だったら、きっと過干渉になってしまうと思います。

恵子さんの気持ちが分からないわけではないですが^-^;
可愛い子には旅をさせないといくつになっても自立できないような気になる老婆心の私がいます。
Commented by ann at 2009-09-22 22:02 x
クリスタルさん、母が娘の心とダブらせることってあるようですね。
不思議に似た感覚があると聞いたことがあります。
沙耶の成長を一番感じているのが恵子だと思います。
Commented by ann at 2009-09-22 22:04 x
panipopoちゃん、日本の母親も今はまた随分変わってきていると思いますが・・やはり日本はまだまだ庇護される期間は長いようですね。
アメリカ的だと独立心は早くしっかりつくのかな?
人生の旅は大事よね・・
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