小説 その26
ひまわりのような人

タイトル画 M.N
その 26
恋愛をしている時の気持ちはおそらく誰もが実年齢よりかなり若やいだ気持ちになるものだと夕子は感じていた。
今黒田と再会し、恋人のように過ごす時間を持って、二人は間違いなく学生時代のような気持ちを取り戻していた。
食事をしてワイングラスを傾けるときも、愛情のこもる表情が夕子にはあった。
味気なく若い人々に付き合っていた昨日とは心の持ちようが違っていた。
それは不思議な感覚だった。
50近くなっても人間はいや、年齢には関係なく人に恋するとき、心は弾力性を蘇らせるらしい。
そして黒田の想像以上に紳士な態度が心を豊かに満たし、ふと友人の恵子に伝えたくなってしまっていた。
その夜は銀座のスペイン料理の店でオムレツやパエリヤを二人はサングリアと共に楽しんでいた。
「ジャガイモ入りのオムレツっていうのは、僕は初めてだな・・思いがけない組み合わせだけれど美味しいねえ。」
そう言って、夕子にも取り分けながらとてもおいしそうに食べている黒田は青年のようだった。
パエリヤは魚介類からの出汁が効いて見事な味だった。
「この米は日本米とは違って大きい粒だし、スープをいっぱい吸っていてたまらない上手さだね!」
スペイン料理をまともに食べたのは初めてだと言って喜んでもりもり食べる黒田が好きでたまらなくなりそうだった。
夕子はやはり女性としてのグルメな面を持っているのか食文化についてはよく知っていた。
ちょっと得意げにいろいろなメニューを紹介するときの口をとんがらせて早口で話す仕草が黒田は可愛い、と感じていた。
サングリアの後に二人はハーフボトルの赤ワインを飲み干した。
すっかり良い気分で食事を終えて、会計は黒田が済ませた。
そして細い階段を上がって地上に出ようとしたときに、二人の体は自然に寄り添っていた。
熱い掌と掌が重なって地上に出ると、自然に二人は少し離れたが、ふと互いに離れがたい思いにかられていた。
だが、その晩はそこで別れた。
二人とも妙な未練は残したくなかった。
それが中年の恋というもののような気がして、我に返る二人がそこに風に吹かれて立ちすくんでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頃恵子の家では居間に夫と娘の沙耶が静かに座っていた。
あれから中村は沙耶には何も言ってこなかった。
仕事上の問題はなんとか収まったが現状のままに営業部に留まることを会社が許さなかった。
夫の堀田紘一郎は文字通り左遷になった中村をそれでも彼の同僚と送別会をして見送ったところだった。
「沙耶、中村君は君に詫びていたよ。待っていてくださいとは言えません、とはっきりと言っていた。」
紘一郎はそう率直に沙耶に話した。
沙耶は
「お父さん、中村さんは私に会いたいとは言わなかったのね。」
「いわない・・言えないだろう。」
「でもお父さんそれはひどい、お父さんの庇護のもとでの付き合いだったのね・・私は」
沙耶は悲痛な思いでそう言葉にしていた。
「沙耶ちゃん、年齢の違いはどうしようもないと思うのよ。それに中村さんはお父さんの部下であることのほうが今は意識が強いんだと思うの。わかってあげなさいね・・」
恵子もそう言葉を挟むしかなかったのだ。


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右の絵は間もなく4歳のりょん君の作品です。
by akageno-ann | 2009-09-29 22:57 | 小説 | Trackback | Comments(5)

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。

夕子さんと黒田さん、うまく行っているようでその華やいだ気持ちが伝わってくるようです。
いくつになっても生きている限り、恋は出来ますよね。
沙耶さんの思いも、恵子さんの思いもきっとそれぞれわだかまりが残るんでしょうね。
なんとなく納得いかない沙耶さんの気持ちも分かります。
それを見守る恵子さんの気持ちも。
いくつになっても生きている限り、恋は出来ますよね。
沙耶さんの思いも、恵子さんの思いもきっとそれぞれわだかまりが残るんでしょうね。
なんとなく納得いかない沙耶さんの気持ちも分かります。
それを見守る恵子さんの気持ちも。
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annさん、こんばんは♪
いくつになっても恋する気持ちは変わりがないけれど、
感情的に突っ走ることが出来なくなるのがある意味切なくもある大人の恋心ですね。
ドキドキしながらもお二人が感情を抑えようとする姿が見えてきて
私までドキドキしてしまいました☆
沙耶さんのやりきれない気持ちもよくわかります。
そしてその悲しむ娘の姿を見るのもご両親はお辛いはず・・・。
感情だけでなく、どこか計算して安全な道を歩く大人としての意見に
恵子さんも歯がゆい想いをしているのかもしれませんね。
いくつになっても恋する気持ちは変わりがないけれど、
感情的に突っ走ることが出来なくなるのがある意味切なくもある大人の恋心ですね。
ドキドキしながらもお二人が感情を抑えようとする姿が見えてきて
私までドキドキしてしまいました☆
沙耶さんのやりきれない気持ちもよくわかります。
そしてその悲しむ娘の姿を見るのもご両親はお辛いはず・・・。
感情だけでなく、どこか計算して安全な道を歩く大人としての意見に
恵子さんも歯がゆい想いをしているのかもしれませんね。
ぱにぽぽちゃん、忙しい中にも読みに来てくれて大感謝!この章もあと三話でひとくぎりです。
よろしくね!
よろしくね!
クリスタルさん、そうですよね~~突っ走るのは若さなんですね・・素敵なコメントありがとう・・とっても元気をいただいてまもなくこの章の一区切りをつけて・・続編を考えてます・
あと少しこの章を楽しんでいただけますように・・
あと少しこの章を楽しんでいただけますように・・