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小説 その28

ひまわりのような人

小説 その28_c0155326_17325010.jpg

                                                      タイトル画 M.N
その28

恵子は38度ほどの熱が出て、久しぶりの熱のせいで頭が朦朧として夢をみた。

そういう時の夢は脈絡がないようでいて、実は現実に起こりそうなできごとにうなされるのだった。

そこに出てきたのは舅だった。

自分が起き上がれなくて食事の仕度ができないのを困っているのに、舅は

「何をしているんだ、気持ちがたるんでいるから、子供たちも道に迷うんだ。」

というようなことを実に冷ややかに話すのだった。

子供たちはもちろん沙耶のことで、沙耶は中村との恋愛の終結を思い悩み、家を出てしまったようだった。

何もかもが、自分を責めているようで、切なくて苦しくて寂しい思いで心が凍りつくようだった。

その思い心をどうしようもなくて、もがき声を出す恵子がいた。

「いや~~~~~~~・・・・・・・・」

声を押しつぶしたようなうめき声でそう叫んだ恵子は、自分の声に目覚めた。

「どうした?大丈夫か?」

ベッドの上から夫の紘一郎が覗き込んでいた。

「はああ・・夢をみていたのよ・・とても辛くて・・」

少し起き上がろうとしたら、初めてのように目が廻った。

「無理をしてはだめだ。なんの熱かわからないけれど、風邪ではなさそうだな。大丈夫だよ家のことはみんなでやってる。」

「お義父さんはどうされてる?」

「自分で買い物に行って、みんなの弁当を買ってきたよ。君のお粥もレトルトを買ってきてるよ。」

先ほどの夢でうなされたのはその義父のせいだなどはいえなくて、ただ自分を恥じ入っていまった。

寝室のドアがノックされて、娘の沙耶がお盆に食事を乗せて持って入ってきた。

「沙耶ちゃん、悪いわね。」

「このお粥、おじいちゃんが買ってきたのよ。私には粥は炊けないだろうって・・今は電気釜でたけるのにねえ・・」

家族の優しさが心に沁みた。

何故あのような夢をみたのだろう?

きっと被害妄想が自分の中にあったに違いない。

そして今発熱した自分は何もできないのだ。若い頃はちょっとの熱くらいでこんな風に寝込んだことはなかったのに。

「沙耶、母さんの代わりができるな。」

「ええ、大丈夫よ。いっぱい心配かけちゃったし、お母さんの心臓がオーバーヒートしたのかもね。」

紘一郎は静かに話しかけてきた。

「恵子、君は我が家のひまわりのような人だが、いつも大きな花を咲かせていなくていいんだよ。
少し黄昏て、秋に向かう人生もあるんだ。何もかもうまくはいかないが、君のお陰でおおよそは事がうまく運んでいるじゃないか?子供たちもなんとか頼りなげでも自分でせいかつしてるからさ。」


その夫の言葉を聞きながら、心の緊張がほどけて、また深い眠りに落ちて行ったようだった。
小説 その28_c0155326_0204781.jpgつづく(小説はすべてフィクションです)

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小夏庵ものぞいてくださいね
右の絵は間もなく4歳のりょん君の作品です。

by akageno-ann | 2009-10-05 17:53 | 小説 | Trackback | Comments(4)

Commented by happygeko at 2009-10-06 21:34
少し黄昏て、秋に向かう人生、、、、今日はこの言葉に
ぐぐっと魅かれました!
「いつもひまわりのようでなくていい」
友人にこの言葉を伝えたい!
ちょっと楽になれそうです。
annさん、ありがとうございました!!!
Commented by ka-chan-anone at 2009-10-06 22:21
私はとてもよく夢に見ます。
心の中の不安とかがすぐに悪夢になってでてきたり・・・。
あまりにも毎日はっきりとした夢を見るので、
何年か前に「夢占い」の本を買ってしまいました(^^;)

恵子さんの心の不安や不満が熱で放出されたのでしょうね。
夢となって・・・。
毎日気を使う相手といると言うのは、
気づかぬうちに心に大きな疲労感を溜め込んでいくと思います。
Commented by ann at 2009-10-07 22:43 x
gekoさん 共感をありがとうございます。
やはり同年代の思いがあるのかな・・?
楽になりたいですね・・これからはもっと・・
Commented by ann at 2009-10-07 22:46 x
CHILちゃん、夢を見ます・・本当に
夢占いの本・・持ってますよ・・古本屋でみつけたの
あまり読まないけど・・そばにあるとなんだか安心!
毎日ある生活の中で妄想ってあるんですよね・・
疲労感・・秋は夏の疲れも出ますね・・
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