ひまわりのような人 最終章
ひまわりのような人

タイトル画 M.N
最終章
堀田恵子の病室に田部夕子が訪れたのは晩秋の夕日がまぶしく病室の窓から差し込む時間だった。
その日は休日で病棟もひっそりとしていた。
日ごろは心電図のモニターがあちこちに置かれて、それによって管理されながら心臓病の患者はウオーキングなどのリハビリを行うのである。
この病棟には心臓疾患の患者が多く、食事を普通食で摂れるせいか 皆明るい雰囲気で病室に滞在していた。
当初恵子は心臓疾患を疑われてこの病室に入ったが調べていくうちに内臓機能が大きく低下し、腸壁からの出血も多く重大な貧血を起こしているようだとわかった。
とにかく安静を心がけさせられて、一月は心配の連続で過ぎて行った。
やはり一番心配したのは夫の紘一郎であったが、やがて疲労に寄る一時的なものだと判断されて、手術の必要もなく、造血剤と点滴によって安定してきた妻の恵子の様子に心からほっとしたのだった。
もっと自由にしてやらなければ、妻を自分の母と同じように早くに亡くしてしまうことだった・・と心から猛省をしていた。
「恵子、どうしたの・・随分と痩せたわね。」
日ごろ体のことで太った痩せたの会話が好きでない恵子だったが、夕子のこの心配する心は素直に受けとめられた。
「どうしたのか・・自分でも鬼の霍乱だと思っているの・・急に体中が痛くなって、発熱してどうしても体が動かなかったの。今までそんなこと一度もなかったので・・ふと自分はこのまま命を落とすのかもしれないと思ってしまったのね。」
夕子は驚いて、ベッドの傍ら近くに進んで恵子の手を握った。
「でも大丈夫よ。よく寝たのよ。初めて安眠剤ももらってそれはそれはよく眠れるの。食欲も最近はやっと出てきたわ。多分私自身が決めた相当な休養を必要としてそれを取ったんだと思うの。」
恵子の声にはいつもの張りはなかった。
夕子は胸の詰まるような思いを隠しながら
「鬼の霍乱と自分でいうのね・・貴方は・・まあよかったわ本当に・・主婦って大変なのね~~
私、結婚していたとしてもあなたのようにはできなかったと思うわ。」
恵子は笑って首を小さく振り
「そんなことない、私は家族に振り回されることが好きなのよ。ただ最近は寄る年波で思うように自分の行動ができなくて・・いたずらに時間をかけて行動したりいらいらしたりしてたから・・自分の許容量を越えたのね・・残念だわ・・」
夕子はすぐに
「私たちのことも心を砕いてくれたものね・・」
と黒田とのことを示唆した。
「それは楽しかったわよ・・で、その後いかが?」
恵子は笑って夕子を促した。
「そうちょっと良い感じかも。でも勇気はないのよ結婚なんて・・今さら・・
うちは両親の介護も近いように思うし・・」
夕子は弾んだ声ながら現実を直視するようなことを言った。
「夕子、でもね~~結婚は一度はいいかもよ・・・良い人に廻りあったのだったら・・
私はのろけるつもりはまったくないのよ・・でもねこうして病気になって死ぬかもしれない・・と思ったときに自分の作った家族があったことは大きかった。特に夫が随分と友情を示してくれたしね。これが年老いた親だけとなるとちょっと不安・・・」
その言葉を冷やかしには受け取れなかった夕子がそこにいた。
「そうかあ恵子が身を持って語ってくれるその言葉はちょっと心に落ちたな・・」
秋はこのまま冬に突入するかのような深い夕日を落として病棟を暗くして行った。
同時に病室の電気を点けて、二人は互いに少し年をとってきたということを感じていた。
まだまだ考えることはたくさんあるのだ・・と何も言葉にしなくとも二人は互いのこれからくる人生の後半のことを考えていた。
「友達も大事よね・・本当に・・・」
そう二人は再び手を取り合って、固く握った。
先ほどの夕日はすっかりと闇をつくり、人生の黄昏も近いことを二人それぞれの心に去来させた。
部屋にはカレンダーのコスモスの写真が可愛らしくそして美しく二人の心を捉えていた。
「ひまわりのような人」 了
ここまでのご高覧に感謝します。
このひまわりのような人は今回で終わりますが、11月からこの続編
「コスモスのように」が始まります。
登場人物も引き続き堀田恵子 田部夕子を中心とした人々になります。
また見守っていただけたら嬉しいです。
筆者Y.N.
by akageno-ann | 2009-10-16 14:52 | 小説 | Trackback | Comments(6)
annさん、こんばんは♪
読み逃してしまったところから今日まで全て読ませていただきました♪
恵子さん、そして彼女をサポートしてくれているご家族、結婚への決意をなかなか踏み出せない夕子さんの心の動き。
全てが上手く絡み合って、とってもいいお話を楽しませて頂きました。
やっぱり人間は一人では生きてはいけないのだな・・・ということも
実感したり・・・。
「いつもひまわりでなくってもいい・・・」そんなご主人の気持ちに共感して、私も肩の力が抜けたような気がします。
人間だもの、無理できないときだってありますよね。
「コスモスのように」も楽しみにしています!
読み逃してしまったところから今日まで全て読ませていただきました♪
恵子さん、そして彼女をサポートしてくれているご家族、結婚への決意をなかなか踏み出せない夕子さんの心の動き。
全てが上手く絡み合って、とってもいいお話を楽しませて頂きました。
やっぱり人間は一人では生きてはいけないのだな・・・ということも
実感したり・・・。
「いつもひまわりでなくってもいい・・・」そんなご主人の気持ちに共感して、私も肩の力が抜けたような気がします。
人間だもの、無理できないときだってありますよね。
「コスモスのように」も楽しみにしています!
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クリスタルさん、最終章への感想をありがとう!
そして共感も!私も自分の肩の力を抜きたくて・・
というところもあって書きました。
一人では生きられない時代ですね・・いえ
いつの時代もそうかもしれない・・と思いつつ
また続けます・・どうぞよろしく!
そして共感も!私も自分の肩の力を抜きたくて・・
というところもあって書きました。
一人では生きられない時代ですね・・いえ
いつの時代もそうかもしれない・・と思いつつ
また続けます・・どうぞよろしく!

ステキな関係の夕子さんと恵子さん。
そして恵子さんの素晴らしい家族関係も新たに認識できてとってもよかったです。
それに病床にあるけれど、恵子さんの明るい感じが最終章にふさわしい感じで読んだ後もすっきりと爽やかでした。
どうもありがとうございます☆
そして恵子さんの素晴らしい家族関係も新たに認識できてとってもよかったです。
それに病床にあるけれど、恵子さんの明るい感じが最終章にふさわしい感じで読んだ後もすっきりと爽やかでした。
どうもありがとうございます☆