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コスモスのように・・その13

師走と聞いただけで、忙しない日々が始まるように思います。
この1年をきちんと締めくくれるような日常にしたいです。


いつも小説を読んでいただきありがとうございます。
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小説 コスモスのように 

その13

三田紀子の夫はそのとき 30歳だった。

彼はスポーツマンで怪我は多かったが そのほかの健康を害したことは一つもなかった。

30歳という年齢でことさら健康への注意を怠っていたようなことは全くなかった。

ただ強いて言えば、自分の生活への自負が強かった点が気になるといえば、気になる・・という程度のものだった。

紀子との結婚生活も順風満帆、仕事も熱心で中学校の数学の教師をしていた。

クラブ活動はバスケットボール・・土、日も出勤する日々だったが、家族との時間も大事にしていた。

紀子は幸せだった。

身重な幸せなこの期間を楽しんでいた矢先だった。

夫はそのまま帰らぬ人になってしまった。

せめてもの慰めは 彼女が病院に到着して、夫と面会してからしばらくの時間があった。

夫はそのまま紀子に看取られて静かに息を引き取った。

そのあまりに突然の出来事に信じられない、というよりも夢の中のできごとのようで、哀しみは湧いてこなかった。

そのことは周りにもよく伝わって・・全ての人々の哀しみに変わっていたのだ。

通夜、告別式とあまりに流れるように質素に行われた。

紀子は学校側からの大勢の葬儀への参列を固辞した。

その人々に会ってしまったとき、大きな哀しみに襲われると感じたからだった。

そこで崩れたら自分はその後生きていけないように思った。

夫の両親もその紀子の申し出を静かに受けてくれた。

ずっと自分の心に生きていてもらうために・・と、紀子は言った。

それはその後の紀子の生きていく上に大きな決断だった。

つづく

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by akageno-ann | 2009-12-07 23:03 | 小説 | Trackback | Comments(4)

Commented by nanako-729 at 2009-12-08 17:04
annさん、こんにちは!
実家から遠く離れてお嫁に行き子供も生まれてお家も建てて
さあこれからという時にご主人が…というお友達がいました。
彼女のことを思い出してしまいました。

紀子さんのこと、ありえない話ではないですね…
Commented by panipopo at 2009-12-08 22:44 x
annさん、こうやって読み進めて行くうちに、人間は若くても健康でも、ある日突然お別れがやって来るかもしれないということを改めて思い出されました。
三田さんの気持ち、素晴らしい描写のおかげで手に取るように分かりました。
前向きに今は生きている三田さん、本当に大変な思いを乗り越えたんですね。
Commented by ann at 2009-12-10 19:11 x
nanakoさん 難しいものですね・・人生ほんとにいろんなことが起こります・・いつもどこかで手綱をしめてないと・・という心境もあるんですよ。
幸せをしっかり紡ぐというのもいいですよね・・
Commented by ann at 2009-12-10 19:12 x
ぱにぽぽちゃん、そうなんですね・・だからその日その日を大事にしないとならない・・と自分に言い聞かせてます。貴方はそれをお菓子に託して日々本当に毎日大事にしていると思うわ・
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