アンのように その1
小説を書いています。
「かけがえのない日本の片隅から」
アンのように その1
その冬はことさらに寒い冬になった。
関東といえども雪が暮れのうちから三度も降っている。
堀田恵子は一人で家事をこなすようになって半年が過ぎ、体はほぼ完全に復活していた。
とはいえ、闘病中に落ちた体重はなかなか元には戻らず、食欲も出てきたとはいえ、身につかないようであった。
主婦というのは自分の食べたいものだけを作れば良いというわけにはいかず、料理が比較的好きな恵子にも病後はさすがに家事の中でしんどさがあったようだ。
舅は恵子との暮らしが戻ったことを喜んではいたが、家政婦の三田紀子がいた頃のような、給料を払って雇うという状況もなかなか良いものだとも感じていた。
嫁である恵子を舅はそれまでは 何もかも当然・・のような顔をして家事や身の回りのことをさせてきたが、三田紀子がその家を辞してからは 少なからず無口になり、自分のことをかなり自分でやることができるようになっていた。
それを一つの潮として、恵子はあまりに気を遣っていた頃の自分を改めて、人の心に委ねることを覚えたのだった。
そうしてそのような静かな時間が過ぎようとしていた。
だが、日本の経済情勢はその時期、かなり深刻な不況に陥り、年金で優雅に暮らせるはずの舅の暮らしにも哀しい事態が偲び寄ってきているのがわかった。
つづく

by akageno-ann | 2010-01-18 23:13 | 小説 | Trackback | Comments(2)

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