その7 カテーテル検査
小説を書いています。
「かけがえのない日本の片隅から」
第1、2章はこちらから→「ひまわりのような人」・・「コスモスのように」
アンのように その7 カテーテル検査
その病院は救急車でいけば20分ほどでつける距離であった。
紘一郎は 正一郎の唇の色の悪さが気になったが、酸素吸入によって安定している様子を感じられた。
何より 自分の父が80を越える高齢でも 命を落とすような気は全くしなかったのだ。
「おやじ・・大丈夫か?」
何度かお追従のようにその言葉を出したが、ふとこういうとき 恵子だったら
『お父さん・・しっかりなさってください。お父さん』
などと気のきいた言葉を自然に発するであろうと思った。
男というのは意外に冷静なのか? それとも他人事なのか?
救急隊員は大変親切でまた機敏で、その様子にも紘一郎は安堵していた。
病院の方は 救命救急の入り口に看護士たちが待ち受けていてくれて、そこから
ストレッチャーで診察室にすぐさま運び入れてくれた。
その間にも血圧と脈拍を知らせていたが、その数字をまともに聞くことはできなかった。
さすがに病院の様子には圧倒されていた。
「すぐにカテーテル検査をしますので、息子さんですね・・
同意書にサインをお願いします。」
若いがしっかりとした医師が 簡単にカテーテルという血管造影の検査について説明し、万が一の場合を覚悟しなければならないというような承諾書を取られた。
不安はよぎってもこれは致し方ないことだった。
そのサインをしようとするときに、優と 恵子が到着した。
「あなた、お待たせしました。お父さんは?」
真剣なまなざしでそこに駆けつける二人に心からの救援を感じた。
事情を簡単にはなして、あとはその医師に頼るしか道はなかった。
だからこういうときの担ぎこまれる病院がどういう病院であるか・・は大切なことだった。
大学病院であったことは、おそらくこの場合最善のことなのだ、と信じていた。
カテーテルの検査はおよそ30分かかるという、それによって父正一郎は命を落とすこともあるのだった。
つづく

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これまでの作品はこちらから→「アンのように生きるインドにて」
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by akageno-ann | 2010-01-25 20:10 | 小説 | Trackback | Comments(2)

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